余念よねん)” の例文
旧字:餘念
時としては目下の富貴ふうきに安んじて安楽あんらく豪奢ごうしゃ余念よねんなき折柄おりから、また時としては旧時の惨状さんじょうおもうて慙愧ざんきの念をもよおし、一喜一憂一哀一楽
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この問題の本人たるお登和嬢は最前より台所にありて何かコトコト御馳走ごちそう支度したく余念よねんなかりしがようやく手のきけん座敷にきたりて来客に挨拶あいさつしぬ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
母は、ばんめしのときに使ったばかりのちゃぶだいをすえて、内職ないしょくのハンケチのへりかがりに余念よねんもなかった。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
ただ余が先生について得た最後の報知は、先生がとうとう学校をやめてしまって、市外の高台たかだいきょぼくしつつ、果樹の栽培さいばい余念よねんがないらしいという事であった。
千代ちいちやん鳥渡ちよつと見玉みたまみぎから二番目ばんめのを。ハア彼の紅ばいがいゝことねへと余念よねんなくながりしうしろより。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
和尚おしょうは朱筆に持ちかえて、その掌に花の字を書きつけ、あとは余念よねんもなく再び写経に没頭ぼっとうした。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
某幼稚園ぼうようちえんでは、こんど陸軍病院りくぐんびょういん傷痍軍人しょういぐんじんたちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだからおさな生徒せいとらは、うたのけいこや、バイオリンの練習れんしゅう余念よねんがなかったのです。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にん少女おとめたちはややしばらくみずの中で、のびのびとさも気持きもちよさそうに、おさかなのようにおよかたちをしたり、小鳥ことりのようにかたちをしたりして、余念よねんなくあそたわむれていましたが
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
丈夫じょうぶづくりの薄禿うすっぱげの男ではあるが、その余念よねんのない顔付はおだやかな波をひたいたたえて、今は充分じゅうぶん世故せこけた身のもはや何事にも軽々かろがろしくは動かされぬというようなありさまを見せている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二人ふたりは、また写生しゃせいにとりかかって、しばらくは、それに余念よねんがなかったのです。
写生に出かけた少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちの一章に女が花園はなぞののなかに立って、小さな赤い花を余念よねんなく見詰みつめていると、その赤い花がだんだん薄くなってしまいに真白になってしまうと云うところを書いて見たいと思うんだがね
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)