伯爵はくしゃく)” の例文
そのかわり、家来けらいたちは子ジカのしたと目を切りとって、それをむすこを殺した証拠しょうこしなとして、伯爵はくしゃくのところへもってかえりました。
ナオミの話では、その露西亜人の舞踊の教師はアレキサンドラ・シュレムスカヤと云う名前の、或る伯爵はくしゃくの夫人だと云うことでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「が、ぼくに言わせると、ユーゴーはバイロンよりもいいですね」と、若い伯爵はくしゃく何気なにげなく口ばしった。——「面白おもしろい点でも上です」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
其の記念碑の表面は、伯爵はくしゃく田中光顕たなかこうけん先生の筆で、「一木権兵衛君遺烈碑いれつひ」とし、裏面には土佐の碩学せきがく寺石正路てらいしまさはる先生の選文がある。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人からは、おくさんと、呼ばれていました。奥さんは、むかし、伯爵はくしゃくの家で、働いていたころのことを思い出しては、よく、人に話しました。
伯爵はくしゃくはお若い時英国へ留学して英語がおとくいだ。矢島先生は殿様がお見えになると必ず書き取りをやってごらんに入れる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
旧藩主M伯爵はくしゃく邸の小使こづかいみたいなことを勤めてかつかつ其日そのひを送っている、五十を越した父親の厄介やっかいになっているのは、彼にしても決して快いことではなかった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし市の有志家が何名か打ちそろって上京した時に、有名な政治家のある伯爵はくしゃくに会って、父の適不適を問いただしたら、その伯爵がどうも不向ふむきだろうと答えたので
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は伯爵はくしゃくではないにしても、多くの伯爵以上の名誉を、おそらく自分のうちにもっています。従僕にしろ伯爵にしろ、私を侮辱する時には、私はそれを軽蔑します。
唐沢家の関係から、貴族院に籍を置く、伯爵はくしゃくや子爵がことに多かった。大抵は、夫人を同伴していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
誰かの遺産がころげこめばよし、アーニャを大金持のところへ嫁にやるのもよし、それともヤロスラーヴリへ出かけて行って、伯爵はくしゃく夫人の伯母さんにぶつかってみるのも悪くはあるまい。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いばりやでぼうで、世界一大金持のようにおもい上がって、ほかの商人たちのなかまを見下みくだしながら、侯爵こうしゃくとか伯爵はくしゃくとか貴族きぞくのやしきによばれて、ぶとう会やお茶の会のなかまになることを
「そう、わしは先刻伯爵はくしゃくからご言伝ことづてになった医者ですがね。」
ひのきとひなげし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
美濃みの十郎は、伯爵はくしゃく美濃英樹の嗣子ししである。二十八歳である。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
服喪中の伯爵はくしゃくの従者たちがその遺骸いがいをあずかった。
伯爵はくしゃく昔話むかばなし
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父がマレーフスキイ伯爵はくしゃくうでをとって、広間を横ぎって玄関げんかんの方へ連れ出し、従僕じゅうぼくのいる前で、冷やかにこう言い渡したのである。——
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
晩餐ばんさんの折り、伯爵はくしゃくは幸い不在だった。照正様てるまささま照常様てるつねさまはそれをいいことにして、フォークの上げ下ろしに正三君を笑った。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかるに図らずもダンスの稽古は、西洋の女———おまけにそれも伯爵はくしゃくの夫人———と接近する機会を作ったのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くつ屋さんは、これはある伯爵はくしゃくのお子さんのためにこしらえたのですが、足に合わなかったのですといいました。
ところが、ちょうどそういうことにきまったとき、伯爵はくしゃくのむすこが教会きょうかいにはいってきたのです。
花園京子はなぞのきょうこといえば、新聞を読む程の人は誰でも知っているだろう。公卿くげ華族花園伯爵はくしゃくの令嬢で、華族様のくせにオペラの舞台に立った程の声楽家で、その上、非常な美人であった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ベレニー伯爵はくしゃくは数か月前ある決闘で殺されたのだった。クリストフは彼女が伯爵といっしょにいてあまり幸福でなかったことを悟った。彼女はまたその長子にも死なれたのだった。
だから、ある方面に知名な人の顔は大分覚えていた。その中には伯爵はくしゃくとか子爵とかいう貴公子も交っていた。彼はこんな人の仲間入をして、その仲間なりの交際つきあいに、損も得も感じなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伯爵はくしゃく昂奮こうふん
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからまた、マレーフスキイにも出会った。若い伯爵はくしゃくは、にやにや作り笑いをしながら、さも親しげに話しかけた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「つかまろう、つかまろう。そうすれば、また、伯爵はくしゃくの馬車に乗って、自分の子供のことも、忘れられるぞ」
妙な因縁いんねんだろう? 今日こんにち我々がハムや野菜のサンドウイッチを喰べるのもみんなこの伯爵はくしゃく賭博とばくふけったお蔭だ。しかしサンドウイッチ伯爵独創の発明とは首肯しゅこうし難いふしがある。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とびらのまえでは兵隊へいたいたちが行進こうしんして、ラッパをふいたり、大だいこや小だいこをうちならしていました。お城のなかでは、男爵だんしゃく伯爵はくしゃく公爵こうしゃくが、家来けらいとしていったりきたりしていました。
ああこの匂、………海の彼方かなたの国々や、世にもたえなる異国の花園をおもい出させるような匂、………これはいつぞや、ダンスの教授のシュレムスカヤ伯爵はくしゃく夫人、………あの人の肌から匂った匂だ。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
伯爵はくしゃく行方ゆくえ
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おかあさんのアンネ・リスベットは、伯爵はくしゃくさまのお屋敷やしきに、働きに行きました。アンネ・リスベットは、絹とビロードの着物を着て、りっぱな部屋へやの中に、すわっていました。
そのまえには、ちょうどおなじ数だけの公爵こうしゃく伯爵はくしゃくが立っていました。
と正三君は子供心にも伯爵はくしゃく知遇ちぐうに感じていた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ところが、わたしは聞いてしまったのです。わたしはその名前を知っていました。その名前の上には、伯爵はくしゃくかんむりがきらめいています。だからこの男は、その名前を大声で言わなかったのです。
むかし、スイスの国に、ひとりの年をとった伯爵はくしゃくが住んでおりました。伯爵にはむすこがひとりしかありませんでしたが、そのむすこはばかで、なにひとつおぼえることができないありさまでした。