二刻ふたとき)” の例文
朝の二刻ふたときばかりで、すッかり肩の皮がけ、ヒリヒリと熱をもって来た。かれは、汗をふくようにみせて、始終涙をこすっていた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根岸から品川まで眞つ直ぐに行つても四里以上あるから、二刻ふたとき辿たどり着くのは一杯々々、人間の足で目白臺へ廻れる筈はない
それから二刻ふたときあまりを過ぎても亭主の藤吉は帰らないので、お徳はまた新らしい不安を感じ出した。そのころの二刻といえば今の四時間である。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何しろこの暑気しょき。それに、風の通さぬ張物の中。はっきりしたことは申しかねるが、まず、ざっと今から二刻ふたときから二刻半ふたときはんぐらいまでの間……」
二刻ふたときほどの前であり、爾来説きつづけているのであったが、どうしたものか冬次郎はそれをうべなおうとはしないのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二刻ふたときばかりまえに息をひきとって、もう死骸の始末もしてしまった、身寄の者でもわかったのか」
しかし、おせっかいであろうと、やっかいであろうと、二刻ふたとき近くもかかっていまだに捕えることができないとならば、いかほど皮肉をいわれたとてもしかたのないことです。
「じゃ、お前はここで、待っていておくれ。一刻いっとき二刻ふたときで、皆帰ってくるからね。」
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すこし話したりまた話が途絶えたりしているひまに、時間というものはまるで駈けてはすぎる、一刻ひととき二刻ふたときのちがいではない、高い日はあっても、それはすぐ秋のようにすげなく落ちた。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
遊びにおいでなさい、ここからホンの一足ですから。一足とは言いながら、それは平常ふだんの日のことで、雪の積った時には、その一足が、常の人で二刻ふたときかかりますよ。おいでなさい、焚火を
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
火桶の中には、ほたるほどな火の気しかなかった。だが、飢えも寒さも第二のものだった。彼は手枕のまま二刻ふたときあまり、昏々こんこんと眠っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拙者を切らばままごと狂女、お浦殺すでござりましょう! ……二刻ふたとき経ってわれ帰らずば、勘助ともどもお浦を殺せと、わたくし伴作に申しつけました。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「わかったのは、つい、二刻ふたときほど前のことでございます。……ちょうど通りすがりに、露路口ろじぐちで騒いでいますから、あっしも、ちょっと寄ってのぞいてまいりました」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
八五郎が夢中になって飛び出して、それからざっと二刻ふたとき近く、明神下は、閑寂に春の陽はけます。
市兵衛が去ってから二刻ふたとき以上になるだろう、窓の障子にさしている陽もうすづき、傾いていた。
あだこ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
巳之助が正気にかえったのは、それから二刻ふたときほどの後で、彼は何者にか真向まっこうを撃たれて昏倒したのである。ようよう這い起きて、闇のなかを探りまわると、提灯はそこに落ちていた。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このほか、ここ一山を中心として、払暁ふつぎょうからひるまえの二刻ふたときばかりにわたる合戦中に、武功を示した将士は列挙するにいとまもないほどである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうしておよそ二刻ふたときあまり山路で時をついやしたが、その時突然間近の峰から勇ましいときこえが湧き起った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから二刻ふたときばかり後、源内先生は淀川堤に沿った京街道を枚方ひらかたの方へセッセと歩いて行く。
お靜のきよらかさを救ふ爲に、どんな事をしても——とあせりましたが、此密室はどんな設計で出來たものか、二刻ふたときあまり探し拔いても、どうしても入つた場所がわかりません。
おえいが話しだすまでに、およそ二刻ふたときあまりもかかった。
二刻ふたとき程もたったろう、花は散っても、まだ春の気分は去らないこのあたりに、宵めく絃歌と共に、ぼつぼつ人が雑鬧ざっとうして来た。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おい、お武家さん、おれたちは、こうして炎天に照らされながら二刻ふたときも前から待っているんです。……つい、いま来て、先にせしめようというなあ、すこしばかり虫がいいでしょう」
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「なんのなんの浅いでよ。二刻ふたときも経ったらなおるであろう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二刻ふたとき余りも戦うと、もろくも、山中山城守の部下は、先を争って、附近の耕地や、山や、湖畔や、八方へ敗走してしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「籤まで二刻ふたときございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「では何か、二刻ふたときほどまえに、時雨堂しぐれどうへの道をきいて、関の山へ参ったのだな。よし。それでは、このまま帰るまい、払いは女中へ渡しておいたぞ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
支那の阿片戦争と日本の場合との比較までを——約二刻ふたときも、彦太は、要助から、たてつづけに聞かされて、頭へ詰めきれない程、充血を持って、外へ出た。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、ここの幹部だけには、やがて二刻ふたときとは経たないうちに、天下に何事が突発するか分っている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに朝から二刻ふたときほども、烈しい教練をやったので、信長は、那古屋なごやの城へ人数を向け、自身もその中の一騎となって、庄内川しょうないがわの河原から引き揚げて来た。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕刻、城中に入ってから、まだ二刻ふたときとも経っていないまに、もう信長は、四国征伐の方策に没頭していた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草雲は、不眠不休のからだを、二刻ふたときほど休めて、早飛脚より、一足あとから、すぐに旅装を締め直した。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、その言葉を、彼が口に洩らしてから、実に、二刻ふたときとて経たないうちであった。一天の星色次第にあらたまり、水颯々、くも䬒々しゅうしゅう、ようやく風が立ち始めてきた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わずか二刻ふたときを過ぎぬまに、盗難に遭った杖は、居ながら自分の前に戻って来たのである。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へえ、私がお使いに出る二刻ふたときほど前から、奥の座敷でチビチビ飲んでおいででした」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無慮二刻ふたときに余る時間を——大なり小なり、快楽、五慾をもたない人間はない。また、その五慾の度を、みずからほどよく——生命の薬ぐらいに——生活に入れている人はすくない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つい二刻ふたときほど前、陳登馬を飛ばして馳せきたり、わが君には昨夜来、曹操そうそうの計にかかって重囲に陥ち給えり、く疾く徐州へ急いで主君を救い奉れ——と、こう城門で呼ばわるなり
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腹もいた、のどかわきぬいて来た。二刻ふたときあまりも山野を駈けたあとである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、すでに二刻ふたときもまえに、みのをきた両名のものが、このせきへかかったが、足軽鑑札あしがるかんさつを持っているので、夜中ではあったが、通したということなので、討手うってのものは、地だんだをふんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、大将十河殿にむかい衷情ちゅうじょうを訴えてみましたところ、茶人の量見はわからぬが武士にも約束を重んずる義はある。二刻ふたときの間だけ、帰宅をゆるしてやろう。客をすましたら再び陣所へ曳くぞ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下役や中間ちゅうげんをさしずして、二刻ふたときほどで、万端ばんたんの公務をすました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも、時間にすれば、わずか二刻ふたときばかりの違いなのに——
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お綱が、宿をぬけだしてから、やや二刻ふたときもたッた時分……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
も蹴ちらして帰ってきます。二刻ふたときとはかかりません
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから二刻ふたときか、一刻いっときばかりののち——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『もう二刻ふたときほどばかり前で』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二刻ふたときほども寝たろうか。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれから二刻ふたとき
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)