中味なかみ)” の例文
砕けたあとから舞い下りて中味なかみ頂戴ちょうだいすれば訳はない。そうだそうだとねらいを定めて、かの亀の子を高い所から挨拶も無く頭の上へ落した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふくろじゃねえよ。おいらのせるなこの中味なかみだ。文句もんくがあるンなら、おがんでからにしてくんな。——それこいつだ。さわったあじはどんなもんだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「あなたの健康の爲めに、私に奉仕してくれる妖精えうせいよ!」と彼は云つた。中味なかみすとそれを私に返した。「皆んな何をしてゐます、ジエィン?」
重詰ぢうづめ中味なかみのまゝつてかへことはない、とおもつたが、成程なるほどわたし家内かないだつて、つらはどうでも、かみつたをんなが、「めしあがれ。」とその火事場くわじばなか
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あなたは、いつでも知らん顔をして居りますし、私だって、すぐその角封筒の中味なかみを調べるような卑しい事は致しませんでした。無ければ無いで、やって行こうと思っていたのですもの。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
御安心ごあんしんくださいまし。上書うわがきなんざ二のつぎ三のつぎ中味なかみからふうまで、おせんの相違そういはございません。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
だから諸君もそのこころざしりょうとして、しまいまで静粛にお聴きにならんことを希望します。このくらいにしてここに張り出した「中味なかみと形式」という題にでも移りますかな。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな感情を起すには、餘りに價値のない彼女だつた。逆説のやうに見えますがおゆるし下さい。私は本心の事を云つてゐるのです。彼女は華やかではあるが中味なかみはない。
同時に多くのイズムは、零砕れいさいの類例が、比較的緻密ちみつな頭脳に濾過ろかされて凝結ぎょうけつした時に取る一種の形である。形といわんよりはむしろ輪廓りんかくである。中味なかみのないものである。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中味なかみはわざ/\其所そこつていてつたやうに、しもうへにちやんとすわつてゐるが、ふたは二三じやくはなれて、へいけられたごとくにかへつて、なかつた千代紙ちよがみ模樣もやう判然はつきりえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)