飾窓かざりまど)” の例文
ロンドンの市中は、非常な霧のために、街筋まちすじには街燈が点り、商店の飾窓かざりまど瓦斯ガスの光に輝いて、まるで夜が来たかと思われるようでした。
末男すゑを子供こどもきながら、まちと一しよ銀座ぎんざあかるい飾窓かざりまどまへつて、ほしえる蒼空あをそらに、すきとほるやうにえるやなぎつめた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
老商はひとりごとをいいながら、黄金メダルを天秤てんびんの皿からおろし、こんどはそれを店の飾窓かざりまどの中にあるガラス箱の棚の一つの上にのせた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
歳暮せいぼ大売出しの楽隊の音、目まぐるしい仁丹じんたんの広告電燈、クリスマスを祝う杉の葉のかざり蜘蛛手くもでに張った万国国旗、飾窓かざりまどの中のサンタ・クロス
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
街路は清潔に掃除そうじされて、鋪石ほせきがしっとりと露にれていた。どの商店も小綺麗こぎれいにさっぱりして、みがいた硝子の飾窓かざりまどには、様々の珍しい商品が並んでいた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
次郎がその小さな飾窓かざりまどのまえに立って待っていると、俊亮は間もなく、小さな蟇口がまぐちを、ぱちんと音をさせながら出て来た。そして、それを次郎に渡しながら
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
プロマイド屋の飾窓かざりまどに反射する六十燭光のまばゆい灯。易者の屋台の上にちょぼんと置かれている提灯ちょうちんの灯。それから橋のたもとの暗がりに出ている螢売の螢火のまたたき……。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
くだもの屋の溝板どぶいたの上にはほうり出した砲丸ほうがんのように残り西瓜すいかが青黒く積まれ、飾窓かざりまどの中には出初めのなし葡萄ぶどうが得意の席を占めている。ふとった女の子が床几しょうぎで絵本を見ていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すこし逆上のぼせる程の日光を浴びながら、店々の飾窓かざりまどなどの前を歩いて、尾張町おわりちょうまで行った。広い町の片側には、流行はやり衣裳いしょうを着けた女連おんなれん、若い夫婦、外国の婦人なぞが往ったり来たりしていた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
看板も、飾窓かざりまども無い。そうして奥の一部屋で熟練のお弟子が二人、ミシンをカタカタと動かしている。北さんは、特定のおとくいさんの洋服だけを作るのだ。名人気質の、わがままな人である。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あつい或る夜のこと、発明王金博士きんはかせは、そでのながい白服に、大きなヘルメットをかぶって、飾窓かざりまどをのぞきこんでいた。
白は客の顔をうつしている理髪店りはつてんの鏡を恐れました。雨上あまあがりの空を映している往来おうらいの水たまりを恐れました。往来の若葉を映している飾窓かざりまど硝子ガラスを恐れました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
というのは午後十一時過ぎのようにまったく遊び専門の人種になり切っていなかった。いくらか足並あしなみに余裕を見せている男達も月賦げっぷ衣裳いしょう屋の飾窓かざりまど吸付すいついている退刻ひけ女売子ミジネットの背中へまわって行った。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
スターベア大総督のかけている椅子の前には、映画館の飾窓かざりまどにスチール写真が縦横に三十枚も四十枚も貼りつけてあるように、さまざまな写真が貼り出してあった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昨日きのう飾窓かざりまどをのぞきこんだが、金貨の割れたのを、れいれいしく飾ってあった、あのがらくた古物商だ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)