くい)” の例文
「そうよ、其奴を、だん踏潰ふみつぶして怒ってると、そら、おいら追掛おっかけやがる斑犬ぶちいぬが、ぱくぱくくいやがった、おかしかったい、それが昨日さ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉ちゃんの顔や身体が、いつでもいつでも、秀ちゃんの横にちゃんとくいついているかと思うと、いやでいやで、憎らしくて憎らしくて、何ともいえない気持になりました。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ナポレオン大帝いえるあり「食いぎて死するものはくい足らずして死するものよりも多し」と、人口稠密なるわが国においてすら餓死するものとては実に寥々りょうりょうたるにあらずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
パパの鋸楽師のこがくしと、ママンのマギイばあさんが珍らしそうに英語名前のくいものを食っている間にかわり立ち代りものはわなの座についた。しかし、英吉利イギリス人は疑い深くて完全に引っかからなかった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わが亡骸なきがらにためらふ事なくくい入りて
「ダガ何かくいたくなったなア」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と朝から晩まで食ごのみくい草臥くたびれれば、緞子どんすの夜具に大の字なりの高枕、ふて寝の天井のおしに打たれて、つぶれて死なぬが不思議なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて意地汚いじきたな野良犬のらいぬが来てめよう。這奴しゃつ四足よつあしめに瀬踏せぶみをさせて、いと成つて、其のあと取蒐とりかからう。くいものが、悪いかして。あぶらのない人間だ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どれも、くいものという形でなく、菜の葉にまれちょうひとしく、弥生やよいの春のともだちに見える。……
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御主人は女性にょしょうなり、わしが一家を預りながら、飛んだ悪魔をお抱えあるをいさめなんだが不念ぶねん至極、何よりもまずこの月の入用いりようをまだ御手許おてもとから頂かぬに、かの悪魔めがくい道楽
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家内という奴が、くい意地にかけては、娘にまけない難物で、ラジオででも覚えたんでしょう。たままりも分らない癖に、ご馳走を取込とりこむせつは相競って、両選手、両選手というんですから。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬき出しは出来なかったが、ちぎれたらくいかねないいきおいで、曳張ひっぱり曳張りしたもんだから、三日めあたりから——蛇は悧巧りこうで——湯のまわりにのたっていて、人を見て遁げるのに尾の方をさきへ入れて