ふり)” の例文
それを故意わざと心附かぬふりをして、磊落らいらくに母親に物をいッたりするはまだな事、昇と眼を見合わして、狼狽うろたえて横へ外らしたことさえ度々たびたび有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
仙ちゃんは試験の時勉強しないで及第する術を伝授してくれた。ボールを拾いに行くふりをして隣屋敷の金柑を盗む事も覚え、算術の可厭な時頭痛がする事も習った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御機嫌ごきげんよろしゅうと言葉じり力なく送られし時、跡ふりむきて今一言ひとことかわしたかりしを邪見に唇囓切かみしめ女々めめしからぬふりたがためにかよそおい、急がでもよき足わざと早めながら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
のう、先刻からお前たちに筆を預けて、俺らあ寝たふりをしてたが、勘、われあ何をえた?
人目をはばからずその妻を愛するは唯継が常なるを、見苦しと思ふ宮はそのそば退かんとすれど、放たざるを例の事とて仲働は見ぬふりしつつ、器具とボトルとをテエブルに置きて、ぢき退まかでぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それに、髪もほこりのままのつかがみで、木綿筒袖の、見得もふりもないのを裾短すそみじかに着、腕には重たげな手籠をかけ、口達者な長屋女房の揶揄からかい半分なさえずりのなかに、物売りの腰を低めているのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは神秘な怖るべき存在であり、神の反対者であり、さも内気そうな無邪気そうなふりを装う暗黒神アリマンであった。毟り取って、殺してしまわねばならないのだ。しかもそれだけではまだ足りない。
女史はもないふりで言つた。紳士は吃驚びつくりして馬のやうな顔をした。
皆其隣のうちの者の住居すまいにしてある座敷にかたまっているらしい。塩梅あんばいだと、私は椽側に佇立たたずんで、庭を眺めているふりで、歌に耳をかたぶけていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この不体裁に乗客は皆眉をひそめた。車掌は見ないふりをしていた。娘はもう辛抱出来なくなって立った。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
智慧あるふりにきらめきて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
母親は見ぬふりをして見落しなく見ておくから、歯癢はがゆくてたまらん。老功の者の眼から観れば、年若の者のする事は、総てしだらなく、手緩てぬるくて更にらちが明かん。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
解けがちにするふり見ても
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
よって更に出直して「大丈夫」ト熱気やっきとしたふりをして見て、歯を喰切くいしばッて見て、「一旦思い定めた事をへんがえるという事が有るものか……しらん、止めても止まらんぞ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あま飛ぶふりも戀ひねば
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
聞えんふりも出来ぬから、渋々って取次に出て、倒さになる。私のお辞儀は家内の物議を惹起ひきおこして度々やかましく言われているけれど、面倒臭いから、構わず倒さになる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)