)” の例文
おりの戸をあけてそっと内部なかにはいると、見かけは鈍重そうな氷原の豹どもも、たちまち牙をきだし、野獣の本性をあらわしてくる。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
辰男の明方の夢には、わらびえる学校裏の山が現われて、そこには可愛らしい山家乙女やまがおとめが真白な手をきだして草を刈りなどしていた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
「ふむ、寺から里へといふ格か。」犬養氏はけもののやうな眼をして、胡散うさんさうにその紙包を見たが、包みにはき出しに金十円と書いてあつた。
猫柳の花の萼は落ち尽して、銀の毛房はき出しになった。小さい椀の粥はほゞすくい食べられて、梨地の底が見えた。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
両唇をきゆつと引き縮めて歯をき出す時には、そのいやに白く若々しく揃つた入歯が、彼の顔全体の相との調和を破つて、まるで骸骨の様に凄くした。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
女は歯をき出して、痩せた体をもだえて、肋骨を二重に折るように、うすい蒲団の下で波打たせていた。
貸間を探がしたとき (新字新仮名) / 小川未明(著)
それもそうじゃな。どれ、一つ杯をそう。この処ちょいとお儀式だ。と独り喜悦よがりの助平づら、老婆は歯朶はぐきき出して、「すぐ屏風びょうぶを廻しましょうよ。「それがい。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんどの大きな衝撃しょうげきで、何よりもはっきりしたことは、武士と町人と、二階級の立場の差であった。二つの日常生活の差異がき出しに事件の表面に現れたことである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どの家にも祝福あれや! いかに精霊は欣喜雀躍したことぞ! いかにその胸幅をき出しにして、大きな掌をひろげたことぞ! そして、手のとどく限りあらゆる物の上に
見るともなく見ると、昨夜想像したよりもいっそうあたりはきたない。天井も張らぬきだしの屋根裏は真黒にくすぶって、すすだか虫蔓だか、今にも落ちそうになって垂下ぶらさがっている。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
唇の薄い割に口の大きいのをその特徴の一つとして彼は最初からながめていたが、美くしい歯をき出しに現わして、潤沢うるおいゆたかな黒い大きな眼を、上下うえしたまつげの触れ合うほど、共に寄せた時は
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若い兵卒、口をき、頭はき出し
ところが、その後明暦三年になると、この地峡に地辷じすべりが起って、とうにそのときは土化してしまっている屍の層がき出しにされた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この場合店員がき出しの京都訛りを使つたのは上出来だつた。何故といつて、これ以上自分のものを取られては、とても立つ瀬が無かつたから。
山ふところの日当りの小竹ささ原を通りかかり、そこに二坪近くの丸さに、小竹之葉ささがはが剥げ、赤土がき出ているのを見付けると、息子の岳神は指して笑いながらいった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
力を入れて三尺ばかり掘って、穴の中に黒い布で包んだ子供を入れた。子供の痩せた足が、布の外にき出た。足には、蚊の刺した痕が赤くなっている。ちょうど莓のように紅く腫れていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて、数尺下の支根がきでても……、まるで根ごと地上に浮きでて昇ってゆくような、奇怪な錯覚さえ感じてくるのだ。なんという樹か。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
直前すぐまへのK法学士が、たまらなささうにわめいて眼をくと、皆は一度に眼をいて笑ひ出した。娘はとう/\居溜ゐたゝまらなくなつて次のに逃げ出したさうだ。
恥も外聞も無いき出しで、きまりが悪いほどだった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
心中考えていたことをき出して、腰巻(Hose)と発音したり、また、死(Tod)と心の中に思っていた言葉が
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
哲学者狩野亨吉かうきち氏は今だに独身で居る。それを不思議がつてゐる或る男が、きつけに狩野氏に訊いた事があつた。
まるで犯人はテルみたいに、たった一矢で、き出しよりも酷い青酸を、相手の腹の中へち込んでいるだろう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「お前さんはヒユウムさんぢやないかね。」婆さんは残り少なの歯をいぬのやうにいてみせた。
「ああ私は……」と鎮子はき出してわらった。「それで、ロレンツ収縮の講義を聴いて直線を歪めて書いたと云う、莫迦ばかな理学生の話を憶い出しましたわ。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「叱られるもんかい。」子供は猿のやうに白い歯をいて見せた。
セルカークは、油脈探しオイル・ハンターの前身を見事きだして、ほとんど天文学数字にひとしい巨大な富を握ろうと……。また、オフシェンコはと……。いうなかにも折竹の、心の琴線に触れるのはザチのこと。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この馬のやうな顔の持主は、馬のやうに白い歯をき出して笑つたが、心の中では何だか面白くなかつた。象山と太郎左衛門との感情の行き違ひは、実をいふと、こんな小さな事に根ざしてゐるのだ。
軍医は猿のやうな白い歯をいてみせた。