陰翳かげ)” の例文
には木陰こかげけてしんみりとたがひむね反覆くりかへとき繁茂はんもしたかきくり彼等かれらゆゐ一の味方みかた月夜つきよでさへふか陰翳かげ安全あんぜん彼等かれらつゝむ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この頃では明るい光をみることの方が多くなり、折々は陰翳かげがさしても自分の工夫でそれを拂ひのけることができるやうになつたのである。
盲目 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
無理もないと思ひつゝも、智惠子の心には思ひもかけぬ怪しき陰翳かげがさした。智惠子は心から此哀れなる寡婦に同情してゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
手でおさえた宗参の胸は、庭の柿の梢が陰翳かげって暗かった。が、溜息は却って安らかに聞こえつつ。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あら陰翳かげが〔約三字不明〕あら、晴れた、そんな風なものでは辛棒出来なくな〔約五字不明〕むずかしい、自分にとっても。今毎月つづけている仕〔約三字不明〕今度大正五年迄。
心に少しの憂いがあるときは、月の前を横ぎる薄雲ほどのかすかな陰翳かげが美しい顔にかかり、よろこびのあるときは静かに澄んだひとみの奥が夜の宝石のように輝いた。師も朋輩ほうばいもこの少年を愛した。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
百合ゆり陰翳かげをば投げに来た。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
無理もないと思ひつゝも、智恵子の心には思ひもかけぬ怪しき陰翳かげがさした。智恵子は心から此哀れなる寡婦をんなに同情してゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
のまだちないうちからにはのぞいてつきしろく、やがてそれがやゝ黄色味きいろみびてにはしげつたかきくりにほつかりと陰翳かげげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
古賀の顏には瞬間ちらりと陰翳かげがさし、複雜な表情が動いたかに見えた。が、それはすぐに消えた。もとの顏にかへつて彼は禮を言ひ、別になにもない、と答へた。
盲目 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
例の枯荵かれしのぶの怪しい短冊の舌は、この時朦朧もうろうとして、滑稽おどけが理に落ちて、寂しくなったし、鶏頭の赤さもやや陰翳かげったが、日はまだ冷くも寒くもない。娘の客は女房と親しさを増したのである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仄かな陰翳かげ其処そこから立昇り、立昇っては声もなく消えて行くのである。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いささかの陰翳かげもなく
五月の空 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さうすると勘次かんじちからきはめてうす中央ちうあうつ。それが幾度いくど反覆はんぷくされた。には木立こだち陰翳かげつてつきひかりはきら/\とうすから反射はんしやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)