こく)” の例文
そう云っちゃあこくかもしれねえが、のぶ公のことは忘れてくれ、おめえ一人にむりを云うんじゃあねえ、おれも女のことは忘れるから
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「まだいるのかはちとこくだな、すぐ帰るから待ってい給えと言ったじゃないか」「万事あれなんですもの」と細君は迷亭をかえりみる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
往々こくに過ぎるなきやと思われた事もないではなかったが、無情は有情の極ということもあるから、こういうことは酷と思う方が無理であろう。
正岡子規君 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そんな事を云ふと、君に叱られさうだが、日本へ戻つて来て、まるきり違ふ世界を見ては、家の者達をこれ以上苦しめるのはこくだと思つたンだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
われわれはあるときはかの人は天才があるのに何故なんにもしないでいるかといって人を責めますけれども、それはたびたび起るこくな責め方だと思います。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そう一こくにさ、いや忌々しいの、腹が立つのといつていたんじや、一日だつて世の中に生きていられはしないよ、世の中が思つたり適つたりで暮らせる位なら
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
此の女の三人連に老婆に席を譲らない責任を負はせるのは、少しくこくであつた。中央に居る子供を懐いて居る女に、席を譲ることを求めるのは、元より無理であつた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
めて来なければ芸道の真諦しんたい悟入ごにゅうすることはむずかしい彼女は従来甘やかされて来た他人に求むるところはこくで自分は苦労も屈辱くつじょくも知らなかった誰も彼女の高慢こうまんの鼻を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
無論今度のことは等閑とうかんすべからざることですが、退校は少しくこくにすぎはしますまいか
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
然れども世界に誇るべき二千年来の家族主義は土崩瓦解どほうがかいするをまぬかれざるなり。語にいわく、其罪をにくんで其人を悪まずと。吾人はもとより忍野氏にこくならんとするものにあらざるなり。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いま零落れいらく高見たかみ見下みくだして全體ぜんたい意氣地いくぢさすぎるとひしとかこくおもふはこゝろがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
須臾しゅゆにして、おもえらくああかくの如くなる時は、無智無識の人民諸税収歛しゅうれんこくなるをうらみ、如何いかんの感を惹起せん、恐るべくも、積怨せきえんの余情溢れてつい惨酷ざんこく比類なき仏国ふっこく革命の際の如く
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
こくに云へば、仲間を侮辱したのだと思はれてゐる矢さきに、禿安はどう感づいたのか、例の小樽新報の孤雲がまだ歌ひ出さないで、「アオウ、アオウ」を頻りに繰り返してゐる最中
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「人の仲間をこき使っておいて、そんな一こくをいったってしようがねえ。オイ宅助」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにこの言葉はこの場合すべてあまりにこくであり、暴虐であつた。私は答へた——
前にも言った通り私は若い婦人を見かけると、評点ひょうてんをつけて置く習慣になっていた。蕎麦切りを戴きながら、令嬢を六十五点とつけたが、辞し去る頃、少しこくだと思って、七十点に改めた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
表門は大いに飾り裏門はみすぼらしくしてあるが、さりとてこれがためにその家の主人が偽君子ぎくんしなりと判断するはこくに過ぎたる批評である。表門と裏門とに区別をもうくるは世の風俗である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「だって、あなたのような方に、それ以上を求めるのはこくだわ」
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
そこまでの判断をうるのはこくです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから主人はこれを遠慮なく朗読して、いつになく「ハハハハ面白い」と笑ったが「鼻汁はなを垂らすのは、ちとこくだから消そう」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはこくだ。閣下はそんな俗人じゃない。徹頭徹尾至誠の人だ。」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少しこくだと思われます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)