遺品かたみ)” の例文
終戦の前年、七月の末ごろ、次兄の遺品かたみらしい防暑服にスラックスという恰好で、前ぶれもなしに柚子が丸の内の会社へやってきた。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
福は内の晩に——年越しの豆撒まめまきの夜——火鉢の炭火のカッカッとおこっているのにあたっている時、あたしは祖父さんの遺品かたみの、霰小紋あられこもん
その方に私の全財産である「死後の恋」の遺品かたみをソックリそのままお譲りして、自分はお酒を飲んで飲んで飲み死にしようと決心したのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ところへ、貴方が拿捕だほされた『室戸丸』の船長から——それが現在私の夫ではございますが、貴方の遺品かたみを贈るという旨を申しでてまいりました。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これは亡くなつた美奈子の父の遺品かたみだ。保雄も美奈子も八九年間に一枚の着物すら新調した事は無いのである。保雄が執達吏の目録をのぞいて見ると
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
その令嬢と、愛の印としてお取り換しになつたものを、遺品かたみとしてお返しになりたかつたのでは、ございませんかしら。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それをほこりめて顧みないのは、幕府の人も、邪宗門といえば、絶対に忌むからで、まして、バテレン達の遺品かたみとあれば手も触れようとはしない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の頃先生は、西洋へ持つていらつしやる脚本をこしらへる為に、種々いろ/\材料を集めてゐらつしやいましたが、それも皆悲しい遺品かたみになつてしまひました。
忘れ難きことども (新字旧仮名) / 松井須磨子(著)
暫く静かに休養したかったし、また一つには幸子が最後の日迄起き伏しをしていた部屋で、遺品かたみの品々の間に、愛しい妻の面輪をいつくしみ度い心からでもあったろう。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
ねえ、ジエィン、あなたは私があのあなたに上げた小さな眞珠の頸飾くびかざりを今でもこの襟飾ネクタイの下の黒い頸に捲きつけてゐることを知つてゐる? 私は遺品かたみだと思つて、私の寶を
淫は富貴に淫するの淫の字——これは愛染明王が大貪著時代だいどんじゃくじだいの拭うても拭いきれない遺品かたみだ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
墨縄すみの引きよう規尺かねの取りよう余さずらさず記せしもあり、中には我のせしならで家に秘めたる先祖の遺品かたみ、外へは出せぬ絵図もあり、京都きょうやら奈良の堂塔を写しとりたるものもあり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母のことは、顔も思い出せないし、何一つ遺品かたみのようなものも残っていないのだ。が、父の相良寛十郎のことは、まるできのうまで生きていた人のように、そっくり思い出すことができるのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父親が自殺する前に、珍しく一緒に散歩に出た時買ってくれた遺品かたみだった。並みでない死に方をした父に対して、執拗しつような愛情を持っている養子には、なくなしては申訳がないという気持もあった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
師父空穂召されしと知るわれのに「去年こぞの雪」あり遺品かたみとなりぬ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
遺品かたみにちょうだいな
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お岩 母の遺品かたみのこの櫛も、わたしが死んだら、どうぞ妹へ。アア、さはさりながらお遺品の、せめて櫛の歯を通し、もつれし髪を。オオ、そうじゃ
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その令嬢と、愛の印としてお取り換しになったものを、遺品かたみとしてお返しになりたかったのでは、ございませんかしら。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「……そうだ。楊修のかばねは捨ててきたが、何か遺品かたみはあるだろう。どこかへ篤く葬ってやりたいものだ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
双方の所持品もちもの同志でも近くに置くとお互いに傷つけ合おうとする位で、相剋の中でも一番恐ろしい相剋なのだから、忘れても相手の遺品かたみなぞを傍近くに置いてはいけない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「たれだろうと、ママの部屋へはいったり、ママの遺品かたみにさわったりしちゃいけないんだ」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その邪気つみのない失敗談をすっぱ抜いてみたり、また泣く泣くも、よい方を取るべき遺品かたみ分けの方へ眼が光ったりして、湿っているうちにも、かなりの人間味が漂うべきはずであるが
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
椽板椽かつら亀腹柱高欄垂木ます肘木ひぢきぬきやら角木すみぎの割合算法、墨縄すみの引きやう規尺かねの取り様余さず洩さず記せしもあり、中には我の為しならで家に秘めたる先祖の遺品かたみ、外へは出せぬ絵図もあり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
遺品かたみにと賜ひし赤きほうずきをわれと思いて撒と分ちぬ。
遺愛集:03 あとがき (新字新仮名) / 島秋人(著)
遺品かたみにちょうだいな
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが、今年になって、はしなくもその孤島にまつわる、秘密が曝露されたと云うのは、教授の遺品かたみとして、一通の文書と油絵とが送られて来たからだった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
疑つてかゝると、信一郎は大事な青年の遺品かたみを、夫人から体よく捲き上げられたやうにさへ思はれた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「これも、お遺品かたみのひとつなの……ヴァイオリンなんか、さわる気にもなれないけど、おこらせるために、わざといてやるの……見ていらっしゃい。愛一郎、また飛んでくるわ」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
後で説明するがね……そこで呉青秀がふところにしていた姉の遺品かたみの宝玉類を売り払って、画像だけを懐に入れて、妖怪ばけもの然たる呉青秀の手を引きながら、方々を流浪したあげく、その年の暮つかた
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お玉の母はその後、やはりこの部落の中で味気ない一生を早く終って、間の山の正調と、手慣れた一挺いっちょうの三味線と、忠義なる一頭のムク犬とを娘のために遺品かたみとして、今は世にない人でありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あれは、わしが商売に扱っているような、ざらにある陶器ではない。明国みんこくにももう滅多にない品だ。その明国から、苦心して日本まで持って来た物だ。また亡くなられた祥瑞ションズイ様のお遺品かたみでもあるし」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遺品かたみにと賜ひし赤きほうずきをわれと思いて撒と分ちぬ。
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
疑ってかゝると、信一郎は大事な青年の遺品かたみを、夫人からていよくき上げられたようにさえ思われた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それに、用というのが、実は向うの室にありまして、御承知のとおり、乗り込むとすぐこの騒ぎだったものですから、てんで艇長の遺品かたみには、手を触れる暇さえなかったのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おどろにむぐらのしげっていた、前庭の花圃かほが取払われ、秋川夫人の遺品かたみを置いてあった部屋は、翼屋の一郭ごとそっくり姿を消し、そのあとに、小径づくりの茶庭を控えた数寄屋が建っていた。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
書籍などという類の遺品かたみであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その叫びは、恋人に恋の遺品かたみを返すことを、頼む言葉としては、余りに悲痛だつた。その叫びの裡には、もつと鋭い骨を刺すやうな何物かゞ、混じつてゐたやうに思はれた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そして、最初にまず、艇長の遺品かたみ二点を取り上げた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その叫びは、恋人に恋の遺品かたみを返すことを、頼む言葉としては、余りに悲痛だった。その叫びのうちには、もっと鋭い骨を刺すような何物かゞ、混じっていたように思われた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)