蹴破けやぶ)” の例文
ただその周囲の処に人がドヤ/″\群集ぐんしゅうして居るだけである。れゆえ大きな声を出して蹴破けやぶって中へ飛込とびこみさえすれば誠に楽な話だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ワッと喊声かんせいをあげて、一同は手に手に、拳銃を持って、飛び出した。扉らしいものを、いきなり蹴破けやぶると、地下室の広い廊下が、現れた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はたして、その日の午後になると、この部落へ、いような落武者おちむしゃの一隊がぞろぞろとはいってきた。各戸かっこの防ぎを蹴破けやぶって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜は夜で近辺のお屋敷の戸しとみ蹴破けやぶる物音の、けたたましい叫びと入りまじって聞えて参ることも、室町あたりでさえ珍らしくはございません。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
開かずば蹴破けやぶるぞとおどゆえに、是非なく戸を明けたれば入りきたるはヤマハハなり。炉の横座よこざみはたかりて火にあたり、飯をたきて食わせよという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この男は村一番の強者つわもので、ある時村の一番強い牛と喧嘩けんかをして、その牛の角をへしり、あばらぼね蹴破けやぶって見事みごとたおしてしまったことのある男であった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
と云いさま、障子を蹴破けやぶって、今しも夫人の胸元を刺そうとしている則重の利腕きゝうでをむずと捕えた。
「ええッ!」と彼女は言った、「うちの娘どもを気の毒そうな目で見やがったあのきれいな嬢さんの畜生が、乞食娘こじきむすめだって。ええあのどてっ腹を蹴破けやぶってでもやりたい!」
「アガアトや」と、ルピック夫人はいう——「部屋へはいる前には、叩いて合図をするんだよ。だからって、なにも、馬みたいな力で戸を蹴破けやぶらなくったっていいんだからね」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
葛巻つづらまきの太刀たちをふるいふるい、手に立つ侍を切り払って、単身門の中に踏みこむと、苦もなくうまやの戸を蹴破けやぶって、この馬の覊綱はづなを切るより早く、背に飛びのるも惜しいように
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが案に相違して、蘭子の勢いがあまりにはげしく、ついに襖を蹴破けやぶる騒ぎに、さすがの恩田も辟易へきえきして、なにげなくその場を取りつくろい、無事に蘭子を帰宅させたのであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
唐紙を蹴破けやぶつて、飛び込んだのは次の六疊、——勘兵衞お關の寢て居た八疊と、その次の間の六疊、——離屋はなれはこの二た部屋きり、其處も半分は焔で、南側の縁側から障子へ、天井へと
『一遍うんとやっつけて片をつけてしまえ。彼奴あいつのどてっ腹を蹴破けやぶってやれ。』
どてツ腹あ蹴破けやぶつて、このわたを引ずり出して、噛潰かみつぶして吐出すんだい!
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おり蹴破けやぶり、桎梏しっこくをかなぐりすてた女性は、当然あるたかぶりを胸にいだく、それゆえ、古い意味の(調和)古い意味の(諧音かいおん)それらの一切は考えなくともよしとし、(不調和)のうちに調和を示し
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どうかすると全く辻褄つじつまの合わないことをやり、女一人でいると、時には何か自分の閉じもっている牢獄ろうごくの窓を蹴破けやぶって飛び出し、思う存分手足を伸ばし胸を張り呼吸をしてみたくもなるものと見え
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひとよこぱらでも蹴破けやぶつてれようかな。
雨風を蹴破けやぶってワアッと飛出します。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
敵のかこみを蹴破けやぶって
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
夜は夜で近辺のお屋敷の戸しとみ蹴破けやぶる物音の、けたたましい叫びと入りまじつて聞えて参ることも、室町あたりでさへ珍らしくはございません。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「ぎゃーッ」主人にさえぎられて、辻永はけもののような声をあげた。これがあの沈着な辻永とはどうして思えよう。彼はクルリとふりむくと、今度は表戸おもてど蹴破けやぶるようにしてサッと外へ飛び出した。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)