しん)” の例文
ところが世間の噂というものが妙に適中するものであるように、こうして親類たちの中傷の言葉が不思議にもしんをなしたのであった。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この言葉がしんをなしたのか、果然、その晩、季節はずれの暴風が一夜吹きつのった。そして眼の前の砂丘の上へ石の標柱を現出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その言葉がしんを成したのでもあるまいが、あたかもその夜、大正何年以来と云う猛烈な颱風たいふうが関東一帯を襲って、幸子は自分に関する限り
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
若しやこの老人の不吉な言葉がしんすのではあるまいかと、いやな予感に、目の先が暗くなって、ゾッと身震いを感じるのであった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何かしら人生の旅路のたよりなさというものがしんをなすような気持に駆られるのも、人情無理のないところがありましょう。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二剣、その所をべつにしたが最後、波瀾はらん激潮げきちょうを生み、腥風せいふうは血雨を降らすとの言い伝えが、まさにしんをなしたのである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
このことばしんをなした。翌々夜よく/\や秋田市あきたしでは、博士はかせてふ取巻とりまくこと、大略おほよそかくとほりであつた。もとよりのちはなしである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
神社合祀が容易ならぬ成り行きを来すべきは当時熊楠が繰り返し予言したところなるに、そのしんついに成りしはわれも人もことごとく悲しむべきである。
真逆まさかこの戸川の言葉がしんをなしたわけでもなかろうが、六条壮介しょうすけのうえにとつぜん不幸な事件が降って来て、彼は第一線を退かなければならないこととなった。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八五郎の不作法な冗談が、不思議なしんをなして、佐渡屋にかかる呪いは、これがほんの発端だったのです。
忠興ただおきの無意識に云ったことばが、それから数年の後、しんをなして怖ろしい予言となってしまった。
〔評〕南洲かつて東湖に從うて學ぶ。當時たうじ書する所、今猶民間にそんす。曰ふ、「一寸いつすん英心えいしん萬夫ばんぷてきす」と。けだ復古ふくこげふを以て擔當たんたうすることを爲す。維新いしん征東のこう實に此にしんす。
「岡の外からはろくな物はまい」と云ふのである。不思議にもこの詞がしんをなした。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
君が「火の柱」の主公篠田長二しのだちやうじとらへて獄裡ごくりに投じたるものに君の為めにしんをなせるに非ずや、君何ぞ此時を以て断然之を印行いんかうに付せざるやと、余の意にはかに動きて之を諾して曰く
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それがしんをなしたわけでもあるまいが、阿母さんはその年の秋からどっと寝付いた。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
檜は老木であったが、前年の暮、十二月二十八日の、風のないに折れた。準平はそれを見て、新年を過してからたきぎかせようといっていたのである。家人は檜がしんをなしたなどといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一両日前の句に「痰のつまりし仏かな」がしんをなしたのである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
結局夕方まで話込んで、又この次訪問する口実を残して置いて、夏子は帰って行ったが、その夜十二時頃、夏子の言葉がしんを為して、恐ろしい事が起った。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山の話がしんをなしたものか、お雪の雄弁——熱を以て語る山のあこがれが、竜之助の頭脳のうちに絵のような印象を植えつけたものか、その夜、竜之助は
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
八五郎の不作法な冗談が、不思議なしんをなして、佐渡屋にかゝるのろひは、これがほんの發端だつたのです。
可心にとって、能登路のこの第一歩の危懼あぶなっかしさが、……——実はしんをなす事になるんです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがしんをなしたわけでもあるまいが、阿母さんはその年の秋からどっと寝付いた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
末路まつろふたゝしんを成せるは、かなしむべきかな。
ひょっとしたら、偶然にも、彼の計画がしんをなして、菰田がまだ本当に死んでいず、彼が墓をあばいたばっかりに、生き返りつつあるのかも知れません。そんな馬鹿馬鹿しい事まで妄想されるのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)