蔵人くらんど)” の例文
旧字:藏人
名を蔵人くらんど蔵人といって、酒屋の御用の胸板を仰反のけぞらせ、豆腐屋の遁腰にげごしおびやかしたのが、焼ける前から宵啼よいなきといういまわしいことをした。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして為朝ためとも御機嫌ごきげんをとるつもりで、きゅう新院しんいんねがって為朝ためとも蔵人くらんどというおもやくにとりてようといいました。すると為朝ためともはあざわらって
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
御池みいけ十郎左衛門だの太田黒兵助おおたぐろひょうすけだの、南保なんぽう余一兵衛、小橋蔵人くらんどなどとよぶ十剣の人たちは、その演舌が気にくわない顔つきで
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただちにお城内、お濠方畑野蔵人くらんど、三宅平七御両名へ、右門、二、三日中によき生きみやげ持参つかまつると伝言すべし
虫が草間ですだいていた。そうして秋草が花咲いていた。草を分け露を散らし、光明優婆塞はひた走った。直江蔵人くらんどやかたのある鍵手ヶ原も走り過ぎた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一寸やそっとの謀叛むほんでは、さゆるぎもしそうもない現状に、いち早く気づいたのは、鹿ヶ谷ししがたにの定連の一人、多田蔵人くらんど行綱である。彼はかつて、新大納言成親から
大宮の庭の名残りの黄菊紫蘭とも見え、月の光に暗い勾欄こうらんの奥からはの袴をした待宵まつよい小侍従こじじゅうが現われ、木連格子きつれごうしの下から、ものかわの蔵人くらんども出て来そうです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高須隼人はいと、国家老、本多民部左衛門、川合蔵人くらんど、家老並、松平主水もんど、以下用人、番頭、物頭を大手門先の上邸へ招集し、大広間で古事披露の祝宴を張り、宴半ばで
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
江戸を立つまえ、主計は側用人の戸田蔵人くらんどに呼ばれ、いろいろ眼にあまる行跡が多いにもかかわらず、寛大に扱われているのは殿の御意によるものだ、それを忘れては相済まぬぞ、と云われた。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
丸目蔵人くらんど、塚原卜伝などの武勇伝物というのも、筋はみな大同小異、娘を助ける、狒々が出る、敵を討つ、御前試合をやる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、愛吉、お前のおともだちの蔵人くらんど軍鶏とうまる呼名)もね、人形町の火事ッきり、どこへ行ったか分らないんだよ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「敵か味方か存ぜねど、われは村上蔵人くらんど義隆、敵ならば首級くびとって功名にせよ! 味方ならば介錯かいしゃくたのむ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いわずとしれた、むっつり右門であろう、というように、にったり笑ったところへ、足軽六、七人を従えて色めきたちつつはせつけたのは、お組頭畑野蔵人くらんどでした。
てきめてたというのに、よけいなことをする手間てまで、なぜはやてきふせ用意よういをしないのです。蔵人くらんどでもなんでもかまいません。わたしはあくまで鎮西八郎ちんぜいはちろうです。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
宴はいよいよ爛熟らんじゅくし、主従同列に盃を舞わして、歓をつくしているうちに、首席国家老の川合蔵人くらんどだけは、盃もとらず、苦虫を噛んだような渋っ面で腕あぐらをかいて、むっつりと控えている。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
よし、蔵人くらんどはここで待て、人数が来たら曲者を捜すように申せ。
確かに、貴方と仲の悪い十郎蔵人くらんど殿は私のところに来ました。
京流吉岡の伝統を負って立つべき十剣のうちの、小橋蔵人くらんどがまず先にたおれてしまい、今また御池十郎左衛門ともあろうほどの者が、つづいて大地へした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蔵人くらんどさぎならねども、手どらまへた都鳥を見て、将軍の御威光、殿の恩徳おんとくとまでは仔細ない、——別荘で取つて帰つて、ぶしをゆわへて、桜の枝につるし上げた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蔵人くらんどはいうまでもないこと、三宅平七はじめお濠方の番士たちは、いずれも目をみはりました。
「土岐蔵人くらんど頼春といえば、六波羅、北面ひっくるめての、美男の武士だということじゃの」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しばらくして供の蔵人くらんどを召した彼は
その男はしかも吉岡十剣の中の一人だった小橋蔵人くらんどであったが、余りにもはやい恐ろしい彼の勢いに
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美濃の名族土岐蔵人くらんど頼春、このお方の一族で、学問も武芸もお出来になるが、美貌がたたって身がもてない、それに気が弱くて感情ばかりはげしい、その上に徹底した放浪性の持ち主
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蔵人くらんど、蔵人。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
植田良平というのは、祇園ぎおん藤次、南保余一兵衛なんぽうよいちべえ御池みいけ十郎左衛門、小橋蔵人くらんど、太田黒兵助ひょうすけなどという古参門下とともに、吉岡の十剣と自称している高弟のうちの一名だった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直江主水氏康と娘松虫に送られて、土屋庄三郎昌春は蔵人くらんどの屋敷を出発した。土用明けの富士の裾野、鍵手ヶ原は朝もや立ちこめ桔梗、女郎花おみなえし吾木香われもこうなど、しとどに露に濡れている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
祖先斎藤蔵人くらんどは、名もなきものにござりますが、義貞公お旗上げの折より、御一族の脇屋殿わきやどのの手について、鎌倉攻めに参加し、のち分倍河原ぶばいがわらのたたかいに、討死をとげました。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木刀の主が塚原卜伝ぼくでん、もう一人の方が直江蔵人くらんど、大声で愉快そうに話して行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伊藤一刀斎、丸目蔵人くらんど、柳生兵庫ひょうご、小野典膳、諸岡一羽もろおかいちうその他、多くの剣客たちでも、等しく武者修行はしたろうが、各〻、意図する所があり、純粋な剣道修行であったかどうかは疑わしい。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸表にご逗留とうりゅう中の大原勅使の従臣、三沢蔵人くらんどでござるが」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、とう蔵人くらんど冬方ふゆかたが、みかどの前に、お笛筥を供える。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)