芳町よしちょう)” の例文
「逢いましたよ。芳町よしちょうの芸者だったそうで、凄い女ですよ。この家のお内儀も綺麗だが、お艶と来たらポトポト水が滴れそうで」
芳町よしちょうやっこ嬌名きょうめい高かった妓は、川上音次郎かわかみおとじろうの妻となって、新女優の始祖マダム貞奴さだやっことして、我国でよりも欧米各国にその名を喧伝けんでんされた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
芳町よしちょうねえさんとこどうだろう。この間もあの子どうしたかって聞いていたから、もっとも金嵩かねかさが少し上がるから、どうかとは思うがね。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは芳町よしちょうの小兼とうより深い中で、今は其の叔父の銚子屋へ預けの身の上、互に逢いたいと一心に思って居るところ
後で芳町よしちょうのだと聞いた、若い芸妓げいしゃが二人、馴染なじみで給仕をして、いま頃夕飯を、……ちょうど茶をつがせて箸を置いた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浜町を抜けて明治座前の竈河岸へっついがしを渡れば、芳町よしちょう組合の芸者家の間に打交りて私娼の置家おきやまた夥しくありたり。浜町の女と区別してこれを蠣殻町かきがらちょうといへり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その日は、捨吉は芳町よしちょうから荒布橋あらめばしへと取って、お母さんに別れて来た時のことを胸に浮べながら歩いて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芳町よしちょう芸妓げいしゃで取って二十五になる愛吉というのが……本名はたしか友口愛子といったっけが、去年……明治四十年の暮に金兵衛から引かされて、築地三丁目の横町で
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芳町よしちょう辺で妙な稼業をしたものの一手の商売ときまり、またその時分すでにそうした気風も幾分かきざしていたけれど、それでも享保時代にはまだ、副業の男娼よりは
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
芳町よしちょう蔵前くらまえわかわかれにむようになったばかりに、いつかってかたもなく二ねんは三ねんねんは五ねんと、はやくも月日つきひながながれて、辻番付つじばんづけ組合くみあわせに、振袖姿ふりそですがた生々いきいきしさはるにしても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
芳町よしちょう米八よねはち、後に今紫と一緒に女優となって、千歳米波ちとせべいはとよばれたは、わたしの知っている女の断髪の最初だと思う。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
粥河はもとより遊山半分信心はつけたりですから、眞葛の外に長治ちょうじという下男を連れて、それに芳町よしちょうやっこ小兼こかねという芸者、この奴というのは男らしいという綽名あだな
多分それは株屋か問屋筋とんやすじ旦那だんなか、芳町よしちょうに芸者屋をしていたころの引っかかりとしか思えなかったが、小夜子はそういうことについては、一切口を割らなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
両国から親父橋おやじばしまで歩いて、当時江戸での最も繁華な場所とされている芳町よしちょうのごちゃごちゃとした通りをあの橋のたもとに出ると、いもの煮込みで名高い居酒屋には人だかりがして
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……抱妓かかえが五人とわけが二人、雛妓おしゃくが二人、それと台所とちびの同勢、蜀山しょくざんこつとして阿房宮、富士の霞に日の出のいきおい紅白粉べにおしろいが小溝にあふれて、羽目から友染がはみ出すばかり、芳町よしちょうぜん住居すまい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遊女に今紫があれば芸妓に芳町よしちょう米八よねはちがあった。後に千歳米坡と名乗って舞台にも出れば、寄席よせにも出て投節なげぶしなどを唄っていた。彼女はじきに乱髪らんぱつになる癖があった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
御贔屓になすった芳町よしちょう金八きんぱちにお豐も御ひいきに成りました、義理が有るとこで、まず松源と鳥八十、大茂へまいりまして、又下谷の芸妓ではお稻に小〆こしめ小竹こたけ、小ゑつ
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「商売に出ていたのは、前後で六年くらいのものですから。それも半分は芳町よしちょうでしたの。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それだけの見識をそなえたものならば知らず、あまりよい名は——つまり名妓をだしたのを誇りにして、取っておきにする例がある。たとえば新橋でぽんた、芳町よしちょうやっこというように……
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
翌日の晩方、銀子は芳町よしちょうの春よしというその芸者屋へ行ってみた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
明治廿四年浅草公園裏の吾妻あづま座(後の宮戸座)で、伊井蓉峰いいようほうをはじめ男女合同学生演劇済美館の旗上げをした時、芳町よしちょうの芸妓米八よねはちには千歳米波ちとせべいはと名乗らせた時分だったか、もすこしあと
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)