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舫
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もや
ふりがな文庫
“
舫
(
もや
)” の例文
大夫は右の手を挙げて、
大拇
(
おやゆび
)
を折って見せた。そして自分もそこへ舟を
舫
(
もや
)
った。大拇だけ折ったのは、四人あるという
相図
(
あいず
)
である。
山椒大夫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
船の支度が出來て、兩國の下に
舫
(
もや
)
つたのは
辰刻
(
いつゝ
)
(八時)少し過ぎ、結構な短册に下手つ糞な歌などを書いて居ると、お料理やお燗の世話を
銭形平次捕物控:161 酒屋忠僕
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
あたりに
舫
(
もや
)
っている大小の船がまだ半分夢を見ている中で、まず水の上へ活気をそそぎ入れるものは、その船頭たちの掛け声だ。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
啣
(
くわ
)
え
煙管
(
ぎせる
)
で頑張り、岸から二、三段の桟橋、
舫
(
もや
)
った船には客が二、三人、船頭は
棹
(
さお
)
を突っ張って「さあ出ますよウ」と
呶鳴
(
どな
)
る。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
近所は、港に
舫
(
もや
)
った無数の
廻船
(
かいせん
)
のように、ただぎっしりと建て
詰
(
こ
)
んだ家の、同じように朽ちかけた物干しばかりである。
交尾
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
▼ もっと見る
カフェ・ドラゴンと、
泥船
(
どろぶね
)
が沢山
舫
(
もや
)
っているお濠との間に、脊の高い日本風の家がある。ところがこの家の二階の屋根にすこし
膨
(
ふく
)
れたところがある。
西湖の屍人
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
暗い運河に舟がいっぱい、風を避けてお互いに身をすりよせるようにして
舫
(
もや
)
っていた。かなり大きなダルマ舟もある。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
「突きゃあしねえよ、何か
舸脚
(
ふなあし
)
に
引
(
ひ
)
ッ
搦
(
から
)
んだようだぜ、
兄哥
(
あにき
)
、俺が岩に
舫
(
もや
)
っているからちょっと見てくんねえ」
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼等は一夜、丈なす雑草や短い刈込樹に蔽われた堤防の
下
(
もと
)
に舟を
舫
(
もや
)
った。昼の
力漕
(
りきそう
)
のために眠りが彼等に早くやって来た。そしてまだ暗いうちに眼が醒めた。
サレーダイン公爵の罪業
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
ふと岩蔭の窪みに、見馴れぬ船が
舫
(
もや
)
っているのに気づいた。十
噸
(
トン
)
ぐらいの白色に塗られたスマートな船だ。
地図にない島
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
南風崎
(
はえのさき
)
、大村、
諫早
(
いさはや
)
と通過する浜の黒々と濡れた磯の巖、灰色を帯びた藍にさわめいている波の襞、
舫
(
もや
)
った舟の
檣
(
ほばしら
)
が幾本となく細雨に揺れながら林立している有様
長崎の印象:(この一篇をN氏、A氏におくる)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「おっと! こりゃあ! いや、風にもいろいろあってな、吹けよ、川風、上れよ、すだれ、の風なんざあ粋だが——おい、庄太、手前、砂利舟は、しっかり
舫
(
もや
)
ったろうな。」
釘抜藤吉捕物覚書:12 悲願百両
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
じつに、この横堀こそは、秋の
隅田
(
すみだ
)
に名物のあの土左衛門舟が
艫
(
とも
)
をとめる
舫
(
もや
)
い堀なのです。
右門捕物帖:34 首つり五人男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
大川の
浜町河岸
(
はまちょうがし
)
に近いある倉庫の岸に
舫
(
もや
)
っていた
伝馬船
(
てんまぶね
)
の船頭の女房が、舟の
艫
(
とも
)
から紐つきバケツをおろして、河水を
汲
(
く
)
んでいると、そのバケツの中へ、肘の所から切断された
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
古風な
独木船
(
まるきぶね
)
が
舫
(
もや
)
っていた。しずかに上下へ揺れているのは、多少
漣
(
さざなみ
)
が立つのであろう。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
中には
舫
(
もや
)
った船に乗って、両手を挙げて、呼んだ方もござんした、が、
最
(
も
)
うその時は波の下で、小雪さんの髪が乱れる、と思う。海の空に、珠の
簪
(
かんざし
)
の影かしら、
晃々
(
きらきら
)
一ツ星が見えました。
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そこには小舟を
舫
(
もや
)
う棒杭一つ打ってあるでもなく、無人の浜辺には、ただ
颯々
(
さつさつ
)
と風に吹かれて五、六本の
椰子
(
やし
)
の木が、淋しく
梢
(
こずえ
)
の葉を鳴らしているばかり、第一小舟すらないのであった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
新堀といえば、新堀にはそのころ舟が幾
艘
(
そう
)
も来て
舫
(
もや
)
っていることがあった。
三筋町界隈
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
灰色の大きな図体は鳴りをひそめた「戦闘艦」が
舫
(
もや
)
っているように見えた。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
何しろお前は
檣
(
マスト
)
の林と、家の際に
舫
(
もや
)
つてある船が大好きなんだから。
ANY WHERE OUT OF THE WORLD
(新字旧仮名)
/
シャルル・ピエール・ボードレール
(著)
ここに
舫
(
もや
)
ひて 何かよぶ
短歌集 日まはり
(旧字旧仮名)
/
三好達治
(著)
「この時もお寿と一緒で、——お蔵前の山口屋が、二人を
伴
(
つ
)
れて柳橋から船を出しました。両国の下へ
舫
(
もや
)
って、歌う、飲む、踊るの大騒ぎです」
銭形平次捕物控:053 小唄お政
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その朝の
河岸
(
かし
)
に近く
舫
(
もや
)
ってある船、黒ずんで流れない神田川の水、さては
石垣
(
いしがき
)
の上の倉庫の裏手に
乾
(
ほ
)
してある小さな鳥かごまでが妙に彼の目に映った。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
一番から八番まで、舟入りの
掘割
(
ほりわり
)
が櫛の歯のようにいりこんでいる岸に、お江戸名物の名も嬉しい首尾の松が思い合った影をまじえて、誰のとも知らぬ小舟が二、三
舫
(
もや
)
ってあった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
その蔭にちょっぴり人家の屋根が
覗
(
のぞ
)
いている。そして入江には舟が
舫
(
もや
)
っている気持。
城のある町にて
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
南風崎
(
はえのさき
)
、大村、
諫早
(
いさはや
)
、海岸に沿うて遽しくくぐる山腹から出ては海を眺めると、黒く濡れた磯の巖、藍がかった灰色に打ちよせる波、
舫
(
もや
)
った舟の
檣
(
ほばしら
)
が幾本も細雨に揺れ乍ら林立して居る景色。
長崎の一瞥
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
屋根船の四、五艘は河岸に
舫
(
もや
)
って上流紳士の出入りも繁く、ほろ酔い機嫌で芸者幇間に取り巻かれ、「御機嫌よう」と送り出す
女将
(
おかみ
)
の声を後に、乗り込む屋根船、二人船頭で景気よく浮かれだし
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
あの、風呂番の爺さんは、そのまま小雪さんを
負
(
おぶ
)
い返して、何しろ、水浸しなんですから、すぐにお座敷へは、とそう思ったんでしょう。一度、あの松に
舫
(
もや
)
った、別荘の船の中へ
抱下
(
だきおろ
)
しましたわね。
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
水と窓との間はほんの三尺そこそこですから、船が
舫
(
もや
)
っているのを、茶店の中の者が気が付かないはずはありません。
銭形平次捕物控:031 濡れた千両箱
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
水と窓との間はほんの三尺そこ/\ですから、船が
舫
(
もや
)
つて居るのを、茶店の中の者が氣が付かない筈はありません。
銭形平次捕物控:031 濡れた千両箱
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
柳橋の下に
舫
(
もや
)
つた船の中で、死骸になつて居るのを見付けた者があります、——大騷ぎでございました
銭形平次捕物控:171 偽八五郎
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
小三郎さんはそれを知つてゐて、月に一度、船の都合では二た月に一度、五日の晩永代の近くに
舫
(
もや
)
つてゐる浪五郎の船へ行つて、一と晩泊つて來るのを樂しみにしてゐるんです
銭形平次捕物控:105 刑場の花嫁
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
小三郎さんはそれを知っていて、月に一度、船の都合では二た月に一度、五日の晩永代の近くに
舫
(
もや
)
っている浪五郎の船へ行って、一と晩泊って来るのを楽しみにしているんです
銭形平次捕物控:105 刑場の花嫁
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「幸ひ薪割は少し外れて、お咲の肩をかすつて水の中へ落ちました。それツと船の中の者が立ち上がりましたが、兩國の橋架の
欄間
(
らんま
)
に
舫
(
もや
)
つた船から、橋の上が見える道理はありません」
銭形平次捕物控:161 酒屋忠僕
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「驚いちやいけませんよ。兩國の人氣者、足藝のお
紋
(
もん
)
の小屋の輕業師で、磯五郎といふ男が、柳橋の下に
舫
(
もや
)
つた船の中で、船頭の金助と一緒に殺されて居るとしたら、どんなもので?」
銭形平次捕物控:171 偽八五郎
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
小判の
栞
(
しおり
)
を
辿
(
たど
)
って行くと大川端で、ここには幾
艘
(
そう
)
となく船が
舫
(
もや
)
っております。
銭形平次捕物控:055 路地の小判
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
柳橋の下に
舫
(
もや
)
つた船の中の騷ぎぢや誰も氣が付かないのも無理はないよ
銭形平次捕物控:171 偽八五郎
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
舫
漢検1級
部首:⾈
10画
“舫”を含む語句
画舫
舫綱
舫索
網舫
舫船
遊舫