)” の例文
これより三留野みとの驛へ三里。山び、水ゆるやかに、鷄犬の聲歴落れきらくとして雲中に聞ゆ。人家或はけいに臨み、或は崖に架し、或は山腹にる。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
苗のまだびない花畑は、その間の小径も明かに、端から端まで目を遮るものがないので、もう暮近いにも係らず明い心持がする。
百花園 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
苦労の中にもたすくる神の結びたまいし縁なれや嬉しきなさけたねを宿して帯の祝い芽出度めでたくびし眉間みけんたちましわなみたちて騒がしき鳥羽とば伏見ふしみの戦争。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は心のびるのを感じた。同時に自説は曲げずにゐても、矢張やはり文献に証拠のないのが、今までは多少寂しかつたのを知つた。(二月三日)
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
佳き文章とは、「情こもりて、ことばび、心のままのまことを歌い出でたる」態のものを指していうなり。情籠りて云々は上田敏、若きころの文章である。
一黒狗耽耳たんじ白胸なるあり、塔前において左股をべ右脚を屈し、人の行道するを見ればすなわち起ちて行道し、人の持斎するを見ればまたすなわち持斎す。
私は知人の訃報を得る度に感ずる痛ましさと寂しさとに打たれつゝ、また人生に對する思索しさくを新たにして、ぼんやり其の葉書を卷いたりばしたりしてゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
近頃にないびやかな心持になって門を出たら、長閑のどかな小春の日影がもうかなり西に傾いていた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
まだ盲目めくらにならない深雪が、露のひぬま……と書かれた扇を手文庫から出して人知れず愛着の思いをべているところに跫音がして、我にもあらず、その扇を小脇にかくした
朝顔日記の深雪と淀君 (新字新仮名) / 上村松園(著)
枯腸は文藻ぶんそうの乏しきを言う。習習は春風の和らぎびるかたち。玉川子とは盧同自身をさす。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
公主は白い腕をべ、さきの尖ったくつをはいて、軽く燕の飛ぶように空を蹴って、雲の上までからだを飛ばしていたが、間もなくやめて侍女達にたすけられて下におりた。侍女達は口ぐちに言った。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四国ならびに中国方面の山林中に自生して樹林の一をなし直幹聳立しょうりつして多くの枝椏をわかち、葉にさきだちて帯白あるいは微紅色の五弁花を満開し、花後に細毛ある葉をべ小核果を結ぶのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
這い込んで、びたり、固まったり、入り乱れたり
母は身を曲げて、両手を
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
びていざよふ雲の君
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
高くべたる大空おほそら
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
糸瓜へちま南瓜かぼちゃび放題に舒びたつるの先に咲く花が、一ツ一ツに小さくなり、その数もめっきり少くなるのが目につきはじめる。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これより山ゆるやかに水びて、福島町に至る間、また一ところの激湍をも見ず。路も次第にくだり下りて、そのきはまる處、遂に數百の瓦甍ぐわばうを認む。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
竹園ちくおんで説法せし時、長老比丘衆中を仏の方向き、脚をべて睡るに反し、修摩那比丘はわずかに八歳ながら、端坐しいた。仏言う、説法の場で眠る奴は死後竜に生まれる。
畑地ならば實際何處でも歩いて行けば行かれると思ふだけでも自由なびやかな氣がする。
写生紀行 (旧字旧仮名) / 寺田寅彦(著)
いかずちの神濃き雲をぶるとき
それから半月あまりを過ぎて、はすの巻葉もすっかりひろがった五月の十六日、谷中の別園に再び林氏の詩筵しえんが開かれた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
めてまた僧となり、袈裟一枚大の地を求むるので承知すると、袈裟をばせば格別大きくなる。かくて広い地面を得て、大工を招き大きな家を立てると、陥って池となり、竜その中に住む。
鼻先とおとがいのとがっているのが目に立つので、色の白い眼の大きいほおのこけた顔立は一層神経質らしく見えるのに、長くばした髪をわざと無造作にうしろに掻き上げている様子。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)