肉體からだ)” の例文
新字:肉体
もどかしいなア、チッバルトをころしをった彼奴あいつ肉體からだをば掻毟かきむしって、なつかしい/\從兄いとこへのこの眞情まごゝろすることも出來できぬか!
おなじく、ふかひゞのはいつた肉體からだをもつてゐるわたしは、これからうみかうとしてゐたので、一つはしばらく先生せんせいにもおかゝれまいとおもつて。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
多緒子は床のなかで、をつとの唄ふ歌の聲を嬉しさうに聞いてゐた。そして快くなりかけた肉體からだのすべてに幸福な哀愁が、靜かに流れてゐるのを覺えた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
で、彼の肉體からだばかりが働いてゐる時は、その優しい親切が、屡〻彼にあつては、烈しい亂暴に近いものであつた。
柔かい肉體からだ資本もとでに、わざ/\ほかの男と戀をして、それを踏臺に自分の名を賣りひろめようとは……。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その厚味のある肉體からだの、動きを直接ぢかに、自分の身體に源吉が感じた。源吉は、女を、今度は何の雜作もなく抱きあげると、そこから、畑に續いてゐる暗い小道へ出た。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
折々思ひだされるのは、もぐさの匂ひと、むかしあたしのひざの前にすわつた祖母と、ついこの間、後から腰へ膝を押しつけたあの娘との、肉體からだくお灸についての異なる感じである。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
かうして私の生命いのち肉體からだはくさつてゆき
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
地獄ぢごく夜叉やしゃ肉體からだには何者なにものませうとや? あんな内容なかみにあのやうな表紙へうしけたほんがあらうか? あんな華麗りっぱ宮殿きゅうでん虚僞うそ譎詐いつはりすまはうとは!
するとある日、夜半に目覺めた多緒子の肉體からだは火のやうになつてゐた。多緒子は苦しくて寢ることが出來なかつた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
永遠にうまれない畸形な胎兒のだんす、そのうごめく純白な無數のあしの影、わたしの肉體からだは底のしれない孔だらけ……銀の長柄の投げ鎗で事實がよるの讚美をかい探る。
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
くびれたごむの 跳ねかへす若い肉體からだ
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
如何なる血のものか、いかなる肉體からだのものか、わからない他人ひとの乳、それがわづかでも我子の肉體からだを流れたかと思ふと、彼女はとりかへしのつかないことをしたやうな氣がしてならなかつた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
それが氣懸きがゝりゆゑ、おれゃもうけっしてこのやみやかたはなれぬ。そなた侍女こしもと蛆共うじどもと一しょにおれ永久いつまで此處こゝにゐよう。おゝ、いまこゝで永劫安處えいがふあんじょはふさだめ、憂世うきよてたこの肉體からだから薄運ふしあはせくびき振落ふりおとさう。
おんみの肉體からだは腐りはじめた
嫋めかしくも媚ある肉體からだ
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
そして、それがなんとなくかれたいしてどくな、彼女かれの一しやうつうじてすまないことのやうに、おもはれるのであつた。まちは、もはや不自由ふじいうあしわるい、自分じぶん肉體からだについてはあきらめてゐる。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)