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きこ
すべて、
海上の
規則では、
船の
出港の十
分乃至十五
分前に、
船中を
布れ
廻る
銅鑼の
響の
聽ゆると
共に
本船を
立去らねばならぬのである。
皺嗄れた
殆ど
聴取れない
程の
聲で、
恁う
唄ふのが
何處ともなく
聽えた。
私は
思はず
少し
歩を
緩くして
耳を
傾けた。
ちと
具合が
惡いので、三
人其所に
立つて
居ると、それと
知つた
男子達は、
聽えよがしに
高話である。
何處の
奴だか、
這んな
大穴を
穿けやアがつた。
今度は
見附次第、
叩殺してやるといふ
血腥い
鼻息※
耳を
傾けると、
何處ともなく
鼕々と
浪の
音の
聽ゆるのは、
此削壁の
外は、
怒濤逆卷く
荒海で、
此處は
確に
海底數十尺の
底であらう。
けれども勞働者の唄は
再び
聽えなかツた。
只軋く
車輪と
鐵槌の響とがごツちやになツて
聞えるばかりだ。
其處此處には
救助を
求むる
聲たえ/″\に
聽ゆるのみ、
私は
幸に
浮標を
失はで、
日出雄少年をば
右手にシカと
抱いて
居つた。