老婆としより)” の例文
源太早くも大方察して老婆としよりの心の中さぞかしと気の毒さたまらず、よけいなことしいだして我に肝煎きもいらせし清吉のお先走りをののしり懲らして
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
短い脇差を帯にさし、草履のを足にしばっているので、人々はこのきかない気の老婆としよりがもう何を決意しているか、よく分った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒く染めたる頭髪かみあぶらしたたるばかりに結びつ「加女さん、今年のやうにかんじますと、老婆としより難渋なんじふですよ、お互様にネ——梅子さんの時代が女性をんなの花と云ふもんですねエ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いやいや思いもかけぬといえば、荒物屋の、あの老婆としより
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黍畑きびばたけ、桑畑などから、それを見つけて、附近の部落の腕白者や、洟垂はなたれを背負った老婆としよりなどが、いなごのようにぞろぞろ出て来て
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と意久地なく落かゝる水涕を洲の立つた半天の袖で拭きながらはるかさがつて入口近きところに蹲まり、何やら云ひ出したさうな素振り、源太早くも大方察して老婆としよりの心の中嘸かしと気の毒さ堪らず
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お通は、あの老婆としよりの、物に仮借かしゃくしない気質を、身に沁みて知っている。悪くすれば斬り捨てられる城太郎かも知れないと思う。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、産寧坂さんねんざかの下の陶器すえもの作りの家の老婆としよりが、夜泣き癖のある孫を負うて、子安こやす観音へ夜詣りに来ていたのでございました」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、親類も小作も、いきり立って、この悲壮な老婆としよりを大将とし、途々、棒、竹槍などをひろって、中山峠へ追って行った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何度か、呼ぼうとしては、相手の隙とか、距離とか、さまざまな条件を老婆としよりらしく緻密ちみつに考え、数町の間、られるように歩いてしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄暗い出合茶屋の店先では、奥の客を忘れたように、老婆としより仲居なかいと小女が、帳場箪笥ちょうばだんすによりかかって居眠りしていた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にこやかに迎え、にこやかに迎えられ、よい老婆としよりうやまわれる幸福を、六十を越えて、彼女ははじめて知ったのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、それ以上の複雑な老婆としよりの狡智と、自分の前に横たわりかけている危ない運命をぬくことは出来ないらしい。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆としよりの声が聞え、彼女は、あわてて中へかくれた。むさい漁師小屋だった。魚油ぎょゆともすとみえ、臭いのにおいがして、家の中に、黄色い明りがついた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表口で、雇い男と老婆としよりが、明日あした赤飯こわめし泥竈へっついにかけてしていた。そこから赤いまきの火がゆらいで来る。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつもなら、風呂桶の側へくるのに、そこに老婆としよりがいると、てれた顔をして、裏の井戸端いどばたへ出て行った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「泥棒という声が聞えたが、部屋を出ても、まだ手癖てくせがやまねえな。……おお彼方むこう老婆としよりが仆れている。甲州者はおれが捕まえているから、あの老婆としよりいたわって来い」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中堂へ訴え出て、わしの素姓すじょうや、わしのことを、悪しざまに告げた者は、おばばであったのだな。健気けなげ老婆としよりのことばと聞き、堂衆たちは一も二もなく信じたに違いない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜が明けると早々から、ひる過ぎも時折、ごうんごうんと鳴っていた。赤い帯をしめた村の娘、商家のおかみさん、孫の手をひいてくる老婆としよりたち。ひっきりなし寺の山へ登って来た。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう六十にもなろうという純朴な老婆としよりから、かたきと狙われているような人物がどうして偉いか。うしろ暗い仇持ちの人間をたたえ、それが世道人心によい風を及ぼすであろうかどうか。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階下した老婆としよりが、渋茶を汲んできて、金米糖こんぺいとうをすすめて、障子をしめ、のろい跫音あしおと梯子段はしごだんに消して、それから裏の方で、干衣ほしものをしまいながら息子を呼んでいる声が聞こえてからも、まだ
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆としよりと思って見くびる——という共通のひがみが、お杉にもある。いや人いちばい強いほうだ。それゆえに、見くびられまいとする緊張が、てこでも動かない顔をこしらえてしまうのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんたらことじゃ。あの娘ッ子はの、いうたら、お客さんに悪いかしらんが、ほんまの病気じゃのうて、仮病けびょうして、不貞寝ふてねしていよったのだによ。老婆としよりの眼から見たらようわかるがの」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれ、何か、連れの者へ怒ッていますぜ。きかない気の老婆としよりもあるものだ」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三年坂の坂下とおぼしき辺りから威勢のよい懸け声が近づいて来たのである。と思うと間もなく、境内の一端にあらわれたのは、一人の駕かきの背中に負ぶさった六十路むそじとも見える老婆としよりだった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、珍らしく老婆としよりを叱って、たおれるように、寝床へ横になってしまった。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆としよりが、笑ってら。もうそう揶揄からかうのは勘弁してくれ。……ところで永い間、お世話になりやしたが、今日は、おいとまをしますぜ。借金を払いますから、勘定書をこさえておいておくんなさい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ばばの前へ行って、あやまりたくなった。けれど伊織の胸には、師の武蔵の悪口あっこうをさんざんいわれたいきどおりがまだそれくらいで消えていなかった。けれどやはり老婆としよりの泣いている姿は彼に悲しかった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆としよりを討たせて堪るものか」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、ひとりの老婆としより
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)