ゆかり)” の例文
『未だ聞かれずや、大臣殿(宗盛)の思召おぼしめしにて、主上しゆじやうを始め一門殘らず西國さいごくに落ちさせ給ふぞや、もしゆかりの人ならば跡より追ひつかれよ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
尾張国内海うつみというところまで来たときは、てっきりそこが、最後だと思った。というのは、故左馬頭義朝が討たれたゆかりの地だったからである。
またこれから日本につぽんまで夫人等ふじんら航海かうかいともにするやうになつた不思議ふしぎゆかり言葉ことばみじかかたると、夫人ふじんは『おや。』とつたまゝいとなつかしすゝる。
遠く白根の山ふところから、かりそめのゆかりの女を呼び寄せてどうする気だ。彼には近き現在に於てお銀様があるはずだ。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
孔子こうしの教えのごときは、よほど俗界にゆかりの近いものであるが、なお恭謙譲の三者をもって最高の徳として考えている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人々は驚くであろうが、そのほとんどすべてはあの民衆の生活に一番ゆかりの深い雑器の類であった。人々が俗称して「下手物げてもの」と蔑む低い器物である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もう自分には何のゆかりもなくなった遠い前世の夢が、くいもなく、ただ遥かな想い出のようによみがえって来るのです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
東郷家にとっても、八雲にも、何のゆかりもない機屋であったが、多門寺の住職と道で口をきいたのが縁になって、彼女は、ここに今夜のおりを待っていたのであった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
磨ぎすましたる三日月は、惜しや雲間に隠れき、ゆかりの藤の紫は、厄難いまだ解けずして再び奈落に陥りつ、外よりきたれる得右衛門も鬼の手に捕られたり。さてかの下枝はいかならん。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お主は川森さんのゆかりのものじゃないんかの。どうやら顔が似とるじゃが」
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
取りはぐつては一生にまた出逢ふことは覚束ないなれば、源太は源太でおれが意匠ぶり細工ぶりを是非遺したいは、理屈を自分のためにつけて云へば我はまあ感応寺の出入り、汝は何のゆかりもないなり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
もし許しておく時は、他国する者が増すであろう。他国したものはゆかり
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
駒形は時鳥ほととぎすゆかりのあるところであるなと思ったことがあります。
上人と私とに深きゆかりを結ばせたものは、私自身の力ではないのです。何者かが私に贈る命数によるのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
汝はなんのゆかりもないなり、我は先口、汝は後なり、我は頼まれて設計つもりまでしたに汝は頼まれはせず、ひとの口から云うたらばまた我は受け負うても相応、汝が身柄がらでは不相応と誰しも難をするであろう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪しき紙と良き文化と果してゆかりがあらうか。とりわけ日々手にする文翰箋や、著はす書物や、それ等のものにどんな紙を選んでゐるか。手近な紙で、国民の平常が忍ばれよう。
和紙の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
その間にはいつも必然なゆかりが結ばれてくる。よき化粧とは身に施すものではなく、身に従ふものであらう。原料を只の物資とのみ思つてはならぬ。そこには自然の意志の現れがある。
雑器の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
その間にはいつも必然なゆかりが結ばれてくる。よき化粧とは身に施すものではなく、身に従うものであろう。原料をただの物資とのみ思ってはならぬ。そこには自然の意志の現れがある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だが万般の事象は皆同じ法のもとにはぐくまれているのである。人々は宗教と工藝とその間に何のゆかりがあるかをいぶかしく尋ねる。そうしてそれをただの器物のことに過ぎぬと云ってさげすむようである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かくして私が上人の調査に就くゆかりは、漸次固く結ばれました。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何か私とゆかりがあるのであらうか。
赤絵鉢 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)