“絡(まつわ)” の例文
私がのっそりと突立(つッた)った裾(すそ)へ、女の脊筋(せすじ)が絡(まつわ)ったようになって、右に左に、肩を曲(くね)ると、居勝手(いがって)が悪く、白い指がちらちら乱れる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜笹村の部屋で寝ようとするお銀の懐へ絡(まつわ)りついて来る子供は、時々老人の側へ持って行かれたが、やはり駄目であった。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひたひたと絡(まつわ)る水とともに、ちらちらと紅(くれない)に目を遮ったのは、倒(さかさま)に映るという釣鐘の竜の炎でない。脱棄(ぬぎす)てた草履に早く戯るる一羽の赤蜻蛉の影でない。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腰に絡(まつわ)りついている婦人連の歔欷(すすりなき)が、しめやかに聞えていた。二階一杯に塞(ふさ)がった人々は息もつかずに、静まり返っていた。後の方には立っている人も多かった。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
見馴れた半纏(はんてん)を着ていません。鎧(よろい)のようなおぶい半纏を脱いだ姿は、羽衣を棄てた天女に似て、一層(いっそう)なよなよと、雪身(せっしん)に、絹糸の影が絡(まつわ)ったばかりの姿。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その指には、白金(プラチナ)の小蛇(こへび)の目に、小さな黒金剛石(くろダイヤ)を象嵌(ぞうがん)したのが、影の白魚のごとく絡(まつわ)っていたのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お孝の彼を抉った手は、ここにただ天地一つ、白き蛇(くちなわ)のごとく美しく、葛木の腕に絡(まつわ)って、潸々(さめざめ)と泣く。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわれあの時あの婦人(おんな)が、蟇に絡(まつわ)られたのも、猿に抱かれたのも、蝙蝠に吸われたのも、夜中に魑魅魍魎(ちみもうりょう)に魘(おそ)われたのも、思い出して、私(わし)はひしひしと胸に当った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「妙法蓮華経如来寿量品。」と繰返したが、聞くものの魂が舷(ふなばた)のあたりにさまようような、ものの怪(け)が絡(まつわ)ったか。烏が二声ばかり啼(な)いて通った。七兵衛は空を仰いで
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帯も扱帯(しごき)もずり落ちて、絡(まつわ)った裳(すそ)も糸のように搦(から)んだばかり。腹部を長くふっくりと、襟の辷(すべ)った、柔かい両の肩、その白さ滑かさというものは、古ぼけた紙に、ふわりと浮く。……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其までは宛然(まるで)恁(こ)う、身体(からだ)へ絡(まつわ)つて、肩を包むやうにして、侍女(こしもと)の手だの、袖だの、裾(すそ)だの、屏風(びょうぶ)だの、襖(ふすま)だの、蒲団(ふとん)だの、膳(ぜん)だの、枕だのが、あの、所狭(ところせま)きまでといふ風であつたのが
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しがみついたという体(てい)で、それで※々(なよなよ)と力なさそうに背筋を曲(くね)って、独鈷入(とっこいり)の博多(はかた)の扱帯(しごき)が、一ツ絡(まつわ)って、ずるりと腰を辷(すべ)った、少(わか)い女は、帯だけ取ったが、明石(あかし)の縞(しま)を着たままなんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯上りの湯のにおいも可懐(なつかし)いまで、ほんのり人肌が、空(くう)に来て絡(まつわ)った。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すっと陽炎(かげろう)が絡(まつわ)る形に、その水の増す内が、何とも言えない可(い)い心地で、自分の背中か、その小児の脚か、それに連れて雲を踏むらしく糶上(せりあが)ると、土手の上で、——ここが可訝(おか)しい——足の白い
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗夜(やみ)の幻影(まぼろし)、麻布銀座のあかりがさすか、その藍と紺の横縞の、お召(めし)……ですか、その単衣に、繻子(しゅす)ではないでしょうが、黒の織物に、さつきの柳の葉が絡(まつわ)ったような織出しの優しい帯をしめている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)