むすび)” の例文
幅の狭い茶色の帯をちょっきりむすびにむすんで、なけなしの髪を頸窩ぼんのくぼへ片づけてその心棒しんぼうに鉛色のかんざしを刺している。そうして襷掛たすきがけであった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはハヤ不念ぶねんなこんだ。帯のむすびめさへたたいときや、何がそれで姉様なり、母様おふくろさまなりのたましいが入るもんだでエテめはどうすることもしえないでごす。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから、もう一つおかしいことがある。この前の二人は、余程の浜村屋贔屓とみえて、髪は路考髷に結い、路考茶の着物を着、帯は路考むすびにしていたそうだ。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
素袷すあわせ一つにむすびっ玉の幾つもある細帯に、焼穴やけあなだらけの前掛を締めて、きたないともなんとも云いようのない姿なりだが、生れ付の品と愛敬があって見惚みとれるような女です。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ともかくもこの娘は尋常科だけ卒業したと言って、その前に雇った下女おんなのように、仮名の「か」の字を右の点から書き始めたり、「す」の字をむすびだけ書き足すようなことはしなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
忠胆義肝匹儔ひつちゆう稀なり 誰か知らん奴隷それ名流なるを 蕩郎とうろう枉げて贈る同心のむすび 嬌客俄に怨首讎えんしゆしゆうとなる 刀下えんを呑んで空しく死を待つ 獄中の計うれいを消すべき無し 法場し諸人の救ひを
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かくの如き佶屈きっくつなる調子も詠みやうにて面白くならぬにあらねどこの歌にてはいたずらに不快なる調子となりたり。筒様に結句を独立せしむるにはむすび一句にてかみ四句に匹敵するほどの強き力なかるべからず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
汝のはかるところ正し、彼等は怒りのむすびを解くなり。 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
むすび藤井左京ふぢゐさきやうと云者あり此頃藤が原へ尋ね來り暫く食客となりて居たりしが時は享保十一午年うまどし正月五日の事なりし朝より大雪おほゆき降出ふりいでしが藤井左京は大膳に向ひそれが去冬きよとうより此山寨このさんさいへ參り未だ寸功すんこうもなくむなしくらすも殘念ざんねんなり我も貴殿の門下となりし手始めに今日の雪を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つぶやきつつ縁側にでたるは、年紀としの頃十六七、色白の丸ぽちゃにて可愛らしきむすめ、髪は結立ゆいたて銀杏返いちょうがえし、綿銘仙の綿入を着て唐縮緬とうちりめんの帯御太鼓むすび、小間使といふ風なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振袖立矢たてやの字、児髷ちごまげ、高島田、夜会むすびなどいう此家ここ出入ではいりの弟子達とはいたく趣の異なった、銀杏返いちょうがえしの飾らないのが、中形の浴衣に繻子しゅすの帯、二枚裏の雪駄穿せったばき、紫の風呂敷包
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「根ツからゐさつしやらぬことはござりますまいが、日は暮れまする。何せい、御心配なこんでござります。お前様まえさま遊びに出します時、帯のむすびめをとんとたたいてやらつしやればいに。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「根ッから居さっしゃらぬことはござりますまいが、日は暮れまする。何せい、御心配なこんでござります。お前様遊びに出します時、帯のむすびめをとんとたたいてやらっしゃればいに。」
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)