経師屋きょうじや)” の例文
旧字:經師屋
朝に簾を捲くに及ばず夜に戸を閉すの煩なし。冬来るも経師屋きょうじやを呼ばず大掃除となるも亦畳屋に用なからん。偏奇館甚独居に便なり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
田原町たわらまち経師屋きょうじや東作とうさく、四十年輩の気のきいた男ですが、これが描き菊石の東作といわれた、稀代きたいの兇賊と知る者は滅多にありません。
「叔母さん、すこし吾家うちも片付きました。ちと何卒どうぞ被入いらしって下さい。経師屋きょうじやを頼みまして、二階から階下したまですっかり張らせました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家に帰れば、留守の間に経師屋きょうじや来りて、障子を貼りかえてゆく。英一のありし部屋、にわかに明るくなりたるように見ゆるもかえって寂し。
和助は芳古堂の職人がしらをしていたが、三年まえの五月に、東仲町へ香和堂という店をもち、経師屋きょうじやとして順調にやっていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
茂「幸兵衛は坂本二丁目の経師屋きょうじや桃山甘六もゝやまかんろくの弟子で、其の家が代替りになりました時、いとまを取って、それから私方わたくしかたに居りました」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
衝立ついたてのような、屏風のようなものの、いずれも骨組ばかりのものがとっ散らかされはじめた、とんと経師屋きょうじやの店先のごとくに。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あとで公学校の島民教員補に聞くと、この子の両親(経師屋きょうじやだったそうだ)は子供に死なれてから間もなくこの地を立去ったということである。
世の中はそう思っておりません。なんの小説家がと、小説家をもってあたかも指物師さしものしとか経師屋きょうじやのごとく単に筆をねぶって衣食する人のように考えている。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
各人各戸に拍子を取ってやったものとすれば、蒲鉾屋かまぼこや経師屋きょうじやの音から類推することはむずかしそうである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
同じく京都の技で忘れ得ないものに表具ひょうぐがあります。昔は裱褙ひょうほうえといいました。作る者を経師屋きょうじやと呼ぶのは、経巻の仕立が表具の起りであったことを示します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私は経師屋きょうじやの恒さんと相識しりあいになったが、恒さんの祖父なる人がまだ生きていて、湘南しょうなんのある町の寺に間借りの楽隠居をしていると知ったので、だんだん聞いてみると
それは一ぷくの画讃の祖師像を、或る時、出入りの経師屋きょうじやが持って来て見せてくれたことからだった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何、何たあ、何たあ何だい、経師屋きょうじやの旦那に向って、何たあ何だい、そんな口は軍鶏に利け。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この人もまた実に不思議な人で、器用というのは全くこういう人の代名詞かと私はいつも思ったことであります。まず、たとえば、料理が出来る。経師屋きょうじやが出来る。指物さしものが出来る。
「新聞やさん。すまないけど夕刊だけ入れてもらえないかね?」「それはどうも有難う。夕刊だけでも、朝刊だけでも配達しますよ。」と私は云った。その隣りは経師屋きょうじやであった。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
私は東京の新宿区に住み、十八を頭に四人の子供があり、主人は経師屋きょうじやです。
それにつれて筆屋や経師屋きょうじやの出入りも頻繁であった。経師では良椿法橋ほっきょうというのが、もっぱら用を弁じたが、筆屋の方の名はわからぬ。ただし筆屋というのは、今日のいわゆる筆商ではない。
足掻あがきやがるな、経師屋きょうじや
「だから金や荷物を預かってもらったんだ、あのときはまだおめえといっしょになって、小さな経師屋きょうじやでもやるつもりだった」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
襖だけは家主から経師屋きょうじやの職人をよこして応急の修繕をしてくれたが、それも一度ぎりで姿をみせないので、家内総がかりで貼り残しの壁を貼ることにした。
十番雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中には内々ない/\張子連はりこれんなどと申しまして、師匠がどうかしてお世辞の一言ひとことも云うと、それに附込んで口説落くどきおとそうなどと云う連中れんじゅう経師屋きょうじや連だの、あるいは狼連などと云う
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
既に何十頁と事がきまってる上に、頭数をそろえる方が便利だと云う訳であって見れば、たとい具眼者が屑屋だろうが経師屋きょうじやだろうが相手をえらんで筆をるなんて贅沢ぜいたくの云われた家業かぎょうじゃない。
元日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
経師屋きょうじやの次男坊で、兄との仲に姉があったため、いかにも気が弱そうです。
襖だけは家主から経師屋きょうじやの職人をよこして応急の修繕をしてくれたが、それも一度ぎりで姿をみせないので、家内総がかりで貼り残しの壁を貼ることにした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっとも当座は若いお比丘さん独りでさぞお淋しかろうなぞと味なことを申して話しに押掛けて参った経師屋きょうじやもないでもなかったが、日が暮れると決して人を入れないので
下谷おかち町の経師屋きょうじやからも仕事をもらうことになった、主人は茂三郎といってね
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
経師屋きょうじや吉三郎きちさぶろう——てんで、とんだ二枚目さ、へッへッへッ」
男は代々木の多聞院門前に住む経師屋きょうじやのせがれ徳次郎、女は内藤新宿甲州屋の抱え女お若で、ままならぬ恋の果ては死神しにがみに誘われて、お若は勤め先をぬけ出した。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
エお前は知ってるのかえなどゝ云われるくらい強気ごうぎと詰らねえものはないがネ、私も紀伊國屋の若旦那を知ってるどころじゃアない、紀伊國屋は幇間たいこもちの方ではないが、経師屋きょうじやの方でお出入だ
雑穀屋の息子は、経師屋きょうじやの次男坊よりも頼りがありません。