簀子すのこ)” の例文
問答が朝子の手を洗っている小さい簀子すのこの処まで聞え、遂に大平が靴を脱ぎ、入って来た。タオルで手を拭き拭き、朝子は縁側に立って
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
呼び出された女童めのわらわは、雨の降り込む簀子すのこの板敷にしょんぼり立っている男の姿をやみかしながら、さも驚いたらしく云った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
南の簀子すのこへ出て、すこし爪さき立ち気味にしてみると、築地ついじごしに岡本ノ宮のあたりが、まるで手にとるやうに見渡される。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
弁信が鈴慕の一曲を聞き終って、ホッと息をついた時に、天井の煤竹すすたけ簀子すのこから、自在竹を伝ってスルスルと下りて来たピグミーがありました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
霊廟みたまやの前なる三二灯籠堂とうろうだう簀子すのこのぼりて、雨具あまぐうち敷き座をまうけて、しづか念仏ねぶつしつつも、夜のけゆくをわびてぞある。
奈世は白い湯巻ゆまきをおろし、更衣場の竹の簀子すのこの上に膝まずいて、片手にタオルを持ち、わしのあがるのを待って居た。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
さうでないと、簀子すのこうへたゝせて、引摺ひきずってかうぞよ。おのれ、萎黄病ゐわうびゃうんだやうなつらをしをって! うぬ/\、ろくでなし! おのれ、白蝋面びゃくろうづらめが!
黒木の柱、梁、また壁板の美事さ、結んでいる葛蔓の逞しさ、簀子すのこの竹材の肉の厚さ、翁は見ただけでも目を悦ばした。敷ものの獣の皮の毛は厚く柔かだった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
板の間の一番奥に、簀子すのこがしいてあり、そこに鏡台があった。鏡台の木質部にも、木目はきわ立っていた。潮風は家の中にまで吹き入るのか。鏡には布がかけてあった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
荷車は中まで透かし見られて、昔は責め道具に使ったらしいこわれかかった簀子すのこが張られていた。
その一軒の廃屋の、簀子すのこが形ばかりに敷いてある部屋に、範之丞とお吉とは坐っていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下が簀子すのこで、その間から湯気がふきあがってくる、つまり蒸し風呂であるが、かれらのあとから、腰のものひとつで、豊かな胸乳をあらわにした、若い女が二人、はいって来たのには
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
君ちょっとかたたたいてくれとか、雨のふる日は納屋にはいって竹の簀子すのこを編もうとか、ある一処にとくさを植え合い顔をつき寄せたり、二人で植木溜うえきだめに行くために奥馬込おくまごめ田圃道たんぼみちを行き
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その二軒目が魚八で、さびれながらも相当に広い店さきには竹の簀子すのこのようなものをならべて、河豚の皮が寒そうにさらしてあった。店には誰もいないので、弥助は奥をのぞきながら声をかけた。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「古寺の簀子すのこも青し冬かまへ」という凡兆の句は、新に仕替えられた簀子の青さを捉えたので、背景がもの寂びた古寺だけに、青竹の効果も極めて顕著であるが、恵方棚の青竹も、きよらかな燈火
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
見て是は/\市之丞樣どうしてマア我々が浪宅を御存じなるや先々まづ/\ちとこれへ御通り下されといふた所が御通りなさるゝ所もなき山崎町乞食長屋の汚穢むさくるしく御氣もじ樣やとひながらも簀子すのこの上にむしろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
起き出でて簀子すのこの端に馬と顔突き合わせながら口そそぎ手あらいす。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
恋せぬはすべなきものかあたら夜の月を簀子すのこにささせつるはや
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
古寺の簀子すのこも青く冬構ふゆがまえ 凡兆
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼がそう云われて、西の対屋たいのやへ戻って来ると、果してあの男が簀子すのこのところに待ち構えていて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おどろきて堂の右にひそみかくるるを、武士ぶしはやく見つけて、何者なるぞ、七五殿下でんかのわたらせ給ふ。りよといふに、あわただしく簀子すのこをくだり、土にして七六うずすまる。
深淵しんえんをも浅いみぞとなし、鉄の格子こうしをも柳の枝の簀子すのことなし、跛者はしゃをも壮者となし、足なえをも鳥となし、愚鈍を本能となし、本能を知力となし、知力を天才となすものであって
と入口に立ったが、べったり流し前の簀子すのこに座布団もなしで坐り込んでいる彼女の風体とその辺に引散らかしてある物品を一目見ると、君が泣き出したのも無理なく思えた。石川は上り框に蹲み
牡丹 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
炉の煙を破風はふまで通すために、丸竹の簀子すのこになっていて、それが年代を経ているから、磨けば黒光りに光るいぶしを包んだすすが、つづらのように自在竹じざいだけの太いのにからみついて落ちようとしている。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山風のはらへば積り積りして簀子すのこに花の絶えぬ庵かな
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
はぎ野は簀子すのこのうえから去った。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
湯殿ゆどのは竹の簀子すのこわびしき 蕉
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あれは渡殿の軒に近く紅梅がほころびていたことを思うと、或る春の日のことであったのは間違いないが、彼が西の対屋たいのや簀子すのこのところで、二三人の女童めのわらわを相手に遊んでいると
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一二八聞くとならばここに来れとて、一二九簀子すのこの前のたひらなる石の上に座せしめて、みづからかづき給ふ紺染あをぞめの巾を脱ぎて僧がかうべに帔かしめ、一三〇証道しようだうの歌の二句を授け給ふ。