石門せきもん)” の例文
お杉が照す蝋燭の淡い光を便宜たよりに、市郎は暗い窟の奥へ七八けんほど進み入ると、第一の石門せきもんが眼の前に立っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
興聖寺の石門せきもんは南面して正に宇治の急流きゅうりゅうに対して居る。岩をり開いた琴阪とか云う嶝道とうどうを上って行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今宵こよいこそはと最後の死をけっして、石門せきもん九ヵしょのかためをえ、易水えきすいをわたる荊軻けいかよりはなお悲壮ひそう覚悟かくごをもって、この躑躅つつじさきたちにしのびこんだ竹童であった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は絹帽シルクハットにフロックコートで勇ましく官邸の石門せきもんを出て行く細君の父の姿を鮮やかに思い浮べた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又半ちやう程行つて二十畳敷ばかりの円い広場へ出たと思ふと、正面に大きないかめしい石門せきもんが立つて居る。石門せきもんの中もまた広場になつて居て、更に第二の石門せきもんやみの口を開くのに出逢ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あるひは、ほとけ御龕みづしごとく、あるひひと髑髏どくろて、あるひ禅定ぜんぢやうあなにもつゝ、あるひ山寨さんさい石門せきもんた、いはには、ひとツづゝみなみづたゝへて、なかにはあをつてふちかとおもはるゝのもあつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
烏帽子えぼうし岩、風戻かざもどし大梯子おおはしご、そこでこの犬帰の石門せきもん遮陽石しゃようせきというのだそうな。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
子路が石門せきもんに宿って、翌朝関所を通ろうとすると、門番がたずねた。——
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
暫くして、一つの巨大なる石門せきもんのところに来ました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これより更に奥深く進むと、第二の黒い石門せきもんが扉のように行手をふさいでいて、四辺あたりの空気は凍るばかりに寒かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
竹童はこの深山にみょうだなと思いながら、なにごころなくながめまわしてくると、天斧てんぷ石門せきもん蜿々えんえんとながきさく、谷には桟橋さんばし駕籠渡かごわたし、話にきいたしょく桟道さんどうそのままなところなど、すべてはこれ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髑髏洞どくろどうの尽きた所にある二つの石門せきもんくゞつて更に一ちやう程の闇穴道あんけつだうを過ぎ、再び螺旋の石階いしばしを昇ると、初めの入口いりくちから七八ちやうも遠ざかつた街に出口が開かれて居た。買つた蝋燭はほとんど燃え尽きて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
二人がず窟の奥へくぐり入って、第二の石門せきもんまで仔細に検査したが、内には暗いつめたい空気がみなぎっているのみで、安行の姿も見えなかった。市郎の影も見えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
北の石門せきもんにあたる外濠である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の方で大きな声をする人があるので、わたしも気がついて見あげると、名に負う第一の石門せきもん蹄鉄ていてつのような形をして、霧の間からきっそびえていました。高さ十じょうに近いとか云います。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)