知己しりあい)” の例文
主人の喜兵衛はそればかり心配して、親類や知己しりあいに頼んで、縁談の雨を降らせましたが、新助はそれに耳を傾けようともしません。
日本橋久松町に住む近親をたよってゆくと、その人が知己しりあいを招いてお園の浄るりを聞かせた。それが東京での封切りであった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
十余人の者はある足軽の家に集まったが、そこには盗賊の入った形跡はなかった。小柄なそこの妻女さいじょは玄関の口に立って知己しりあいの人と話していた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
我輩は好奇ものずきの人間なので、こういう蔦吉といったような、やくざな芸人には知己しりあいがあり、手なずけることも出来たのさ。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
恰度知己しりあいの貧しい学校の先生の家で、七人目の赤ん坊が生まれて、育てかねていたのを貰って養うことにしたのです。
或る母の話 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
、こちらで存じておりますような訳には参りますまいけれども、あのう、私は篠田さんと云う、貴方の御所おところの方に、少し知己しりあいがあるのでございまして。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たゞ一寸ちょっとした知己しりあいの死を、死んでは少しさびしいが、しかし大したことのない知己の死を、話しているのに過ぎなかった。信一郎は、可なり拍子抜けがした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
坂本町に住む伯母の知己しりあいの世話で私が目黒の駅に務めることになったのは、去年の夏の暮であった。私はもう食を得ることよりほかにさしあたりの目的あてはない。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
半七はそれから小梅の知己しりあいをたずねて、夕七ツ(午後四時)を過ぎた頃に再び庄太の家をたずねると、となりの葬式の時刻はもう近づいて露路のなかは混雑していた。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十六歳からの知己しりあいなので、豊後ぶんごの片田舎に郷士の子としていた自分の才を認めて、その頃姫路城にいた羽柴秀吉に話し、初めて、秀吉という人物と自分との機縁を結んでくれたのも実に
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はいずれも小田夫婦とは二、三年前からの知己しりあいでありまして、一人は友田剛ともだごうというK大学生、年は二十五歳、他の一人は大寺一郎おおでらいちろうという某大学の学生で、此の人は当時二十四歳であったのです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「俺は部屋住みで自由の身分だ。それに天下に知己しりあいがある。どこの何者を訪ねようと、少しも不思議はないではないか」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
翌晩になって彼女は雑誌記者だと云う三人づれの客の席へ呼ばれた。その時同じように呼ばれて来ていた知己しりあいの女から
料理番と婢の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自分の家に出入りしている以上、会う機会、知己しりあいになる機会が、幾何いくらでも得られると思うと、彼女の小さい胸は、歓喜のためにはげしく波立って行くのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私も品川に子供をさらわれた知己しりあいを持っておりますが、日頃ふだんはろくに見てもやらなかった子供でも、悪者にさらわれたとなると、まるで気狂いのようになって
何も三年越見なかった人なり、殊にそういう知己しりあいの婆さんが在って見れば、これをつてで、また余所よそながら尋ねられないこともないが、何となく、急に見たい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その親しげなものの言い振りで私ははじめて、二人が知己しりあいであるということを知った。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
この江戸へ来てから知己しりあいになった浪人仲間の友達が三、四人打ち連れて来て
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は岩本のうしろからこわごわ入って、四五人いる給仕女の顔を一わたり見廻したが、平生いつものとおりの知己しりあいの女ばかりで、べつに怪しい顔は見えなかった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼奴あいつは有名な悪党なんですよ。ええ、あの一座の親方って奴はね。ちょっと私とも知己しりあいなんで。釜無かまなしぶんというんでさ。……ああ本当に飛んだことをした。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
社長の曽我とも知己しりあいなかでこの間の失敗しくじりを根に持ってよほど卑怯な申立てをしたものと見えて、始めは大分事が大げさであったのを、幸いに足立駅長が非常に人望家であったために
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
僕の父なんかも、何時いつの間にか、あんな連中と知己しりあいになっているのですよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「小田巻直次郎、これでも武士だ。辻斬や剽盗おいはぎに朋友も知己しりあいもない、——さア、踏込んで見ぬか。怪しい者は居ない代り、金はうんとあるぞ。小判というものを堪能するほど拝ましてやる。それ」
その生れた子供は毎日のようにじょちゅうの手に抱かれて、正午比ひるごろと夕方家の前へ出ていた。子供はひいひい泣いている時があった。通りかかった知己しりあいの者がくと
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
遁れて知己しりあいの農家に隠匿い、今日まで二人で生活くらして来る間、彼は今更に澄江という女が、女らしい優しい性質の中に、毅然として動かぬ女丈夫の気節を、堅く蔵していることを知り
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そのお坊さんの中には、いろんなお坊さんがありますから、うっかりお坊さんと知己しりあいになってはいけませんが、あのお坊さんなら大丈夫でございましょう」
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたし知己しりあいでございます。もしや死んだのではございますまいか?」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宮地翁はこんなことを云って知己しりあいの人に話して笑った。河野には細君さいくんがあった。およねと云う女の子もあった。細君には同藩の木村知義ともよしと云う人の妹であった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
知己しりあいの土方が居る
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
登はふとこの家は茶店をめてても、酒ぐらいは置いてあって、知己しりあいの書生などには酒を飲ましているらしいなと思った。彼はすぐじぶんふところのことを考えてみた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家を逃げだして東京へ出てから一二軒じょちゅう奉公をしているうちにある私立学校の教師をしている女と知己しりあいになって、最近それの世話で某富豪の小間使に往って見ると
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
じぶんは今度の高等文官試験の本準備にかかるまえに五六日海岸の空気を吸うてみるためであったが、一口に云えばわかい男が海岸へ遊びに往っていて、偶然に壮い女と知己しりあいになり
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なにを申す、めったなことを申してはならんぞ、この女と児は、その方の知己しりあいか」
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「今に判りますよ、判らなくたって、これからお知己しりあいになりゃ、いいでしょう」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これという知己しりあいの者がなくて困っております、ただ私の家にもと使っていた金栄きんえいという男が、鎮江で百姓をしているということを父から聞いてますが、それは義理がたい男だそうですから
金鳳釵記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは張河公ちょうかこうと云う知己しりあいの老人であった。許宣はうれしくてたまらなかった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私の知己しりあいの男が上京した時の話に、友人と彼の女との関係が判って来て、友人の細君は細君で、狂人きちがいのようになって騒ぎだすし、女の親類もやかましく云いだしたので、友人はしかたなしに
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汽船会社の先輩の世話で上海シャンハイ航路の汽船の事務員になって、上海へ往く途中で病気になり、その汽船会社と関係のある上海の病院に入院中、福岡県出身の男と知己しりあいになって、いっしょに広東カントンへ往き
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
面倒な事情がからまって来たりなんかして、それがために別れてしまって、女は故郷のほうへ帰れないと云うところから、何人だれ知己しりあいの者を頼って東京へ来ているのか、もうとうに他に夫が出来ていて
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
河野が死んでから二十日はつかばかりしてのことであった。何かの用事で東京から大阪へ往っていた宮地翁は、中の島の知己しりあいの家で河野の寄寓きぐうしていた粕谷治助に逢って、河野の歿くなった話を聞かされた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)