相成あいなり)” の例文
すべて嘘というものは一、二度はけれど、たびたび詠まれては面白き嘘も面白からず相成あいなり申候。まして面白からぬ嘘はいうまでもなく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
然らば人一倍眼も見え、耳も聞ゆるようにとこそ願うべきに、物も見えず、進退にも事をくように相成あいなり、何として手柄をたて得らるゝぞ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
然るに先日の御書状あまりに大問題にて一寸ちょっと御返事にさしつかえ不相済あいすまぬと存じながら延引いたし居候内、今年も明日と明後日とのみと相成あいなり申候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
私儀わたくしぎ今般貴家御離縁に相成あいなり、実父より養育料差出そうろうについては、今後とも互に不実不人情に相成ざるよう心掛たくとぞんじ候」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
過般、御送付相成あいなり候『倫理教科書』の草案、閲見えっけん、少々意見も有之これあり、別紙にしたため候。妄評御海恕被下度くだされたく、此段、得貴意きいをえ候也。
読倫理教科書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一 私儀わたくしぎ狂言作者志望につき福地先生門生もんせい相成あいなり貴座きざ楽屋へ出入被差許候上者でいりさしゆるされそうろううえは劇道の秘事楽屋一切の密事決而けっして口外致間敷いたすまじく依而よって後日ごじつのため一札如件いっさつくだんのごとし
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
富「誠に幸いな処へ駈付けました、どうか水飴を召上る事はおとゞまりを願います、決して召上る事は相成あいなりません」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
嫡子ちやくしに立られ候然耳しかのみならず藤五郎ならびに藤三郎儀は先平助實子に付始終しじうすけ五郎ため相成あいなり申さずと存じられ候藤五郎は座敷らう押入おしいれ食物しよくもつを相とゞめ藤三郎儀は幼少えうせうに之有候を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
歳暮もおひおひ近く相成あいなりそうらへば、御上京なされ候日の、指折る程に相成候を楽み居り候。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
失われたる御悲歎の程は千万御同情申上候得共えども余りに其事のみ思詰められては御健康にもよろしからず此際転地でも為され十分御静養相成あいなり候様差出がましき次第ながら旧友の老婆心より御忠告申上候
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小生儀、異性の一友人にすすめられ、『めくら草紙』を読み、それから『ダス・ゲマイネ』を読み、たちどころに、太宰治ファンに相成あいなりそうろうものにして、これは、ファン・レターと御承知被下度くだされたく候。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「いや、御苦労様、これからゆっくりとおひけに相成あいなります?」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にわか模様更もようがえ相成あいなり
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃では頭を少しもたぐる事も困難に相成あいなり、また疼痛とうつうのため寐返り自由ならず蒲団の上に釘付にせられたる有様に有之候。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
得ず帝都の眼覚めざましき活動に遠ざかりて残念至極に候まま明日あすは明日はと思ひつつ今日こんにちまでに相成あいなり候が今月末は是非とも東京へ参り御眼にかかりたくぞんじ
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
御酒宴の席は夜がふけるほどにぎやかに相成あいなり、いつ果てることかわかりませなんだ。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
文「先生、文治郎が能く事柄もわきまえませずにかゝるお席へ参り、不行届ふゆきとゞきの儀を申上げて、却ってお腹立の増すことに相成あいなり重々恐入ってござる、此のお詫言わびごとには重ねて参りますから左様御承知下され」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
復啓二月二十一日付を以て学位授与の御辞退相成あいなりたきおもむきの御申出相成あいなり候処そうろうところすで発令済はつれいずみにつき今更いまさら御辞退のみちもこれなく候間そうろうあいだ御了知相成たく大臣の命により別紙学位記がくいき御返付おかえしつけかたがたこの段申進もうしすすめそうろう敬具
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抜きたるものとのみ存候いしも三年の恋一朝いっちょうにさめてみればあんな意気地いくじのない女に今までばかされて居ったことかとくやしくも腹立たしく相成あいなり候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しだいに万燈会まんどうえのごとくおびたゞしい数になりまして、ひでよし公が大柿おおがきより夜どおしでお馬をかえされたらしく、廿一日の暁天ぎょうてんにあたって余吾よごのみずうみのかなたがにわかにさわがしく相成あいなり
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
生は歌よみにむかいて何のうらみも持たぬにかく罵詈がましき言を放たねばならぬように相成あいなり候心のほど御察被下度おさっしくだされたく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
これにりて観れば昔の歌よみの歌は、今の歌よみならぬ人の歌よりも、はるかに劣り候やらんと心細く相成あいなり申候。さて今の歌よみの歌は昔の歌よみの歌よりも更に劣り候はんには如何いかが申すべき。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)