相図あいず)” の例文
旧字:相圖
大夫は右の手を挙げて、大拇おやゆびを折って見せた。そして自分もそこへ舟をもやった。大拇だけ折ったのは、四人あるという相図あいずである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一彦は寝そべったまま白布はくふを手にして振り、爺さんはしきりに炭焼竈の煙をさかんにあげて飛行機の方に相図あいずをしました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで彼は大井の言葉には曖昧あいまいな返事を与えながら、帳場の側に立っているおふじに、「来い」と云う相図あいずをして見せた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜明よあけまで書を読んで居て、台所の方で塾の飯炊めしたきがコト/\飯を仕度したくをする音が聞えると、それを相図あいずに又寝る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
御祭がの十二時を相図あいずに、世の中の寐鎮ねしずまる頃を見計って始る。参詣人さんけいにんが長い廊下を廻って本堂へ帰って来ると、何時の間にか幾千本の蝋燭そうそくが一度に点いている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『それは、そろそろあめ切上きりあげる相図あいずをしているのじゃ。もうもなくあめかみなりむであろう……。』
宇都宮の杉原町へ往ったら供を先へって置いて、そうして両人で相図あいずしめあわしたらかろうね
この場合には土器を漏れる水の代りにフィルムを巻いた回転円筒が使われ、棒に刻んだ線を人間が眼で見て烽火を挙げる代りに真空光電管の眼で見た相図あいずを電流で送るのである。
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
相図あいずの小笛吹継ふきつぎのこと。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよい兵端へいたんを開く時には浜御殿はまごてん、今の延遼館えんりょうかんで、火矢ひやげるから、ソレを相図あいずに用意致せとう市中に布令が出た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夫人が左手をあげて相図あいずをすると、路傍に眠っていた真黒なパッカードが、ゆらゆらとこちらへ近付いて来た。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
俊助はまた金口きんぐちに火を付けながら、半ば皮肉な表情を浮べた眼で、もう一度「それから?」と云う相図あいずをした。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『あれ、あめ竜神りゅうじんさんが、こちらをいて、なにやら相図あいずをしてむかうのほうんでかれます……。』
それから約一カ月ほどちました。御大葬ごたいそうの夜私はいつもの通り書斎にすわって、相図あいず号砲ごうほうを聞きました。私にはそれが明治が永久に去った報知のごとく聞こえました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言ったかと思うと、市兵衛は煙管で灰吹きをたたいたのが相図あいずのように、今までの話はすっかり忘れたという顔をして、突然鼠小僧次郎太夫ねずみこぞうじろだゆうの話をしゃべり出した。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は自分の前に置かれた紅茶茶碗の底に冷たく浮いている檸檬レモン一切ひときれけるようにしてその余りを残りなくすすった。そうしてそれを相図あいずに、自分の持って来た用事を細君に打ち明けた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あれは火雷命ほのいかずちのみことだ。」と、囁いてくれるものがあった。 大男は静に手を挙げて、彼に何か相図あいずをした。それが彼には何となく、その高麗剣こまつるぎを抜けと云う相図のように感じられた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども自分には何の相図あいずもせずに、すぐその眼をページの上に落した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勿論すぐに席を離れて、訳読して見ろと云う相図あいずである。そこでその生徒は立ち上って、ロビンソン・クルウソオか何かの一節を、東京の中学生に特有な、気のいた調子で訳読した。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四人の車はこの英語を相図あいずした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一座は互に顔を見合せたまま、しばらくの間は気まずい沈黙を守っていなければならなかった。が、やがて俊助は空嘯そらうそぶいている大井の方へ、ちょいとあご相図あいずをすると、微笑を含んだ静な声で
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)