白茶しらちゃ)” の例文
その右を少しだらだらと降りたところがあらたに土を掘返したごとく白茶しらちゃけて見える。不思議な事にはところどころが黒ずんで色が変っている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とどの顔も白茶しらちゃけた、影の薄い、衣服前垂きものまえだれ汚目よごれめばかり火影に目立って、すすびた羅漢の、トボンとした、寂しい、濁った形が溝端みぞばたにばらばらと残る。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんちりめんへ雨雲を浅黄あさぎ淡鼠ねずみで出して、稲妻を白く抜いたひとえに、白茶しらちゃ唐織からおり甲斐かいくちにキュッと締めて、単衣ひとえには水色みずいろ太白たいはくの糸で袖口の下をブツブツかがり
岩とも泥とも見当けんとうのつかぬ、灰色をなすった断崖だんがいは高だかと曇天に聳えている。そのまた断崖のてっぺんは草とも木とも見当のつかぬ、白茶しらちゃけた緑を煙らせている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこには脂ぶとりにふとった水へびが、くねくねといやらしい白茶しらちゃけた腹をみせていました。この沼のまんなかに、難船した人たちの白骨でできた家がありました。
なんとまた巨大な通風筒の耳孔みみあなだろう。新鮮な藍と白茶しらちゃとの群立だ。すばらしい空気の林。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
田は黄色から白茶しらちゃになって行く。此処其処の雑木林や村々の落葉木が、最後のさかえを示して黄にかちに紅に照り渡る。緑の葉の中に、柚子ゆずが金の珠を掛ける。光明はそらからり、地からもいて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
灰色に鬱々うつうつとした雲は、おおいかぶさるように空をめ、細い白茶しらちゃけたみちはひょろひょろと足元を抜けて、彼方かなた骸骨がいこつのような冬の森に消えあたりには、名も知らぬ雑草が、重なりあって折れくちていた。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
白茶しらちゃ御納戸茶おなんどちゃ黄柄茶きがらちゃ燻茶ふすべちゃ焦茶こげちゃ媚茶こびちゃ千歳茶ちとせちゃなどがあり、色をもつ対象のがわから名附けたものには、鶯茶うぐいすちゃ鶸茶ひわちゃ鳶色とびいろ煤竹色すすだけいろ、銀煤色、栗色、栗梅、栗皮茶、丁子茶ちょうじちゃ素海松茶すみるちゃあい海松茶
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それはどこかの庭をえがいた六号ばかりの小品しょうひんだった。白茶しらちゃけたこけおおわれた木々と木末こずえに咲いた藤の花と木々の間にほのめいた池と、——画面にはそのほかに何もなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
高いけやき白茶しらちゃけた幹を路の左右に並べて、彼らを送り迎えるごとくに細い枝を揺り動かした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
デカとピンとチョンが、白茶しらちゃのフラシてん敷物しきものを敷きつめた様な枯れてかわいた芝生しばふ悠々ゆうゆうそべり、満身に日をびながら、遊んで居る。過去は知らず、将来は知らず、現在の彼等は幸福こうふくである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白茶しらちゃである。黒である。濃鼠こいねずみである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「どうだね」と折のふたを取ると白い飯粒が裏へ着いてくる。なかには長芋ながいも白茶しらちゃに寝転んでいるかたわらに、一片ひときれの玉子焼が黄色くつぶされようとして、苦し紛れに首だけ飯の境に突き込んでいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日曜だが、来客もなくてしずかなことだ。主と妻と女児と、日あたりの母屋おもや南縁なんえんで、日なたぼっこをして遊ぶ。白茶しらちゃ天鵞絨びろうどの様に光る芝生しばふでは、犬のデカとピンと其子のタロウ、カメが遊んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)