玩弄おもちゃ)” の例文
お葉は覚悟をめた。𤢖わろ見たような奴等の玩弄おもちゃになる位ならば、いっそ死んだ方がましである。彼女かれは足の向く方へと遮二無二しゃにむにと進んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
質問してしまえばもはや用の無いはずだが、何かモジモジして交野かたのうずらを極めている。やがて差俯向いたままで鉛筆を玩弄おもちゃにしながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あ、あれだ、誰もおらぬと思うたのはこれも間違い、あの中に一人の男がいる、口の利けない男がいる、今それを引き出して玩弄おもちゃにするのだ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大人おとな玩弄おもちゃには持って来いのように出来ているものであるから、西洋人の眼にそれが珍奇に見えて購買慾をそそられたのは道理もっとものことと思われる。
動物をなま殺しにして玩弄おもちゃにして見たり、又は無意味に暗黒を恐れたりするのは、この性質の発露だそうであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お前さんのような道理わけの分らない人間は猫や犬を見たようなものだ。何だ教育があるの何のといって、人の娘を玩弄おもちゃにしておいて教育が聴いてあきれらあ。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
石々いしいし合わせて、塩んで、玩弄おもちゃのバケツでお芋煮て、かじめをちょろちょろくわいのだ。……ようあねさん、」
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ありますよ。御神酒所で休んでいる時、今日の昼頃、当り箱を玩弄おもちゃにしていて、ツイ手拭の端へ、たという字を書きました。たたみやのたつぞうの頭文字の積りです」
子供等は時々彼等をつかまえて玩弄おもちゃにする。彼等はお愛想あいそよく、耳を立て鼻を動かし小さな手の輪組の中におとなしく立っているが、少しでも、隙があれば逃げ出そうとする。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
小町 あら、可愛いではありませんか? ちょいとわたしにさわらして下さい。わたしはうさぎが大好きなのですから。(使の兎の耳を玩弄おもちゃにする)もっとこっちへいらっしゃい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
黒い豊かな髪をきれいに取り上げた、すんなりと背の高い女だ。笑うたびに肩から腰を大ぎょうに波うたせて、色好みの男の玩弄おもちゃにまかせてきたらしい、しなやかな胴である。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
手頃な屏風びょうぶがないので、ただ都合の好い位置をって、何のかこいもない所へ、そっと北枕に寝かした。今朝方けさがた玩弄おもちゃにしていた風船玉を茶の間から持って来て、御仙がその枕元に置いてやった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは玩弄おもちゃの鉄砲の中にある蛇腹のような奴サ、第二は曲線的有則螺線サ、これはつまり第一の奴をまげたのと同じことサ、第三は級数的螺線サ、これは螺線のマワリが段々と大きくなる奴サ
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と指環を玩弄おもちゃにしながら光代は言う。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
いいかげん玩弄おもちゃにして、もうヘトヘトになった道庵を、裸松は手近な井戸流しのところへ引きずって来ましたが、それでも、殺すまでの気はないと見えて
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
玩弄おもちゃは取替えられたんです、花は古い手につまれたんです……男は、潔い白い花を、後妻になれと言いました。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな山奥へ引摺込ひきずりこまれて、人だか𤢖だか判らぬような怪物共ばけものども玩弄おもちゃにされてたまるものか。ひと面白くもない、好加減いいかげんに馬鹿にしろと、彼女かれは持前の侠肌きゃんを発揮して、奮然たもとを払ってった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あの金時計かい。藤尾が玩弄おもちゃにするんで有名な」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男に取替えられた玩弄おもちゃは、古い手に摘まれた新しい花は、はじめは何にも知らなかったんです。清い、美しい、朝露に、あさひに向って咲いたのだと人なみに思っていました。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その恰好かっこうがおかしいといって裸松は、いい玩弄おもちゃにして面白がっている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
乱暴な小僧こぞの癖に、失礼な、末恐しい、見下げ果てた、何の生意気なことをいったって私がとこに今でもある、アノとうで編んだ茶台はどうだい、嬰児ねんねえってあるいて玩弄おもちゃにして
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「けれど、それはみんな、あたしの方かられたのじゃなくってよ、早くいえば、あたしがだまされたんですね、それから自棄やけになって、とうとう七人の男にみんなだまされて、玩弄おもちゃになってしまいました」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「か、知らぬか、のう。二度添とはの、二度目の妻の事じゃ。男に取替えられた玩弄おもちゃ女子おなごじゃ。古い手に摘まれた、新しい花の事いの。後妻うわなりじゃ、後妻ごさいと申しますものじゃわいのう。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は氏なくして玉の輿こしだから、どんな身分の人に姉さんといわれないとも限らぬが、そりゃ男の方から心を取って惚れさせようとか、気に入られようとかして、後じゃあ玩弄おもちゃにするためだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指でこしらえたような、小さな玩弄おもちゃの緑の天鵝絨びろうど蟇口がまぐちを引出して、パチンとあけて、幼児おさなごが袂の中をのぞくように、あどけなく、嬉しそうに、ぱっちりした目を細めて見ながら、一片ひとひらの、銀の小粒を
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「食べやしないんだよ。爺や、ただ玩弄おもちゃにするんだから。」
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)