いずく)” の例文
夕月淡く柳がくれの招き行燈あんどに飛ぶとり落とす三遊亭圓朝が一枚看板、八丁荒しの大御所とて、いずくんぞ沙弥しゃみより長老たり得べけむや。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
いずくんぞ知らんこの種の句は月並つきなみ家者流において陳腐を極めたるものなるを。恥をかざらんと欲する者は月並調も少しは見るべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
昔の人は人に存するもの眸子ぼうしより良きはなしと云ったそうだが、なるほど人いずくんぞかくさんや、人間のうちで眼ほど活きている道具はない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人は伏見、鳥羽の砲火によりて、革命の業行われたりという。いずくんぞ知らん、その十五年前において、幕府は既に精神的自殺をなし遂げたるを。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
子賤しせんう。君子なるかな、かくのごときの人。魯に君子者無くんば、いずくんぞこれを取らんと。——公冶長篇——
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
やよ聴水。縦令たとひわれ老いたりとて、いずくンぞこれしきの雪を恐れん。かく洞にのみ垂籠たれこめしも、決して寒気をいとふにあらず、獲物あるまじと思へばなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
けれどもいずくんぞ知らん、外より共に帰って家庭内の人となるや、往々にして、たちまち夫婦喧嘩げんかを演じ、声荒々しく膂力りょりょく逞しき妻にその手をねじ伏せられて
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
季路、鬼神きしんつかえんことを問う。子曰く、未だ人に事うるあたわず、いずくんぞつかえん。曰く、敢えて死を問う。曰く、未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いずくんぞ知らん。この間にあって道庵先生は臥薪嘗胆がしんしょうたんの思いをして、復讐の苦心をしていたのであります。
彼の口より斯かる言辞が流れ出たのである、是れ「我れ未だ生を知らずいずくんぞ死を知らん」と言う人の言ではない、く死と死後の事とを知り給いし神の子の言である
八合目より一旦いったん七合に引返したりといえり、二人は山頂の光景を見て、如何いかに感じけん、予に向いて、いずくんぞこれ千島ちしまたぐいならんや、きみは如何にして越年を遂げんとするか
いうを休めよ、三月の下り凧は江戸ッ児の末路を示すものだと、江戸ッ児本来の面目は執着を離れて常に凝滞せざるを誇りとするもの、いずくんぞ死と滅亡とに兢々たるものであろうぞ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
かくのごときは財産の権利を享有きょうゆうしながら、その義務を負担しないというものである。とみ跋扈ばっこするというと、いつも米国を例にとるが、いずくんぞ知らん日本にもその例にとぼしからぬを。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
行也こうや いずくにぞ あえいやしくもせん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
燕雀えんじゃくいずくんぞ大鵬たいほうこころざしを知らんやですね」と寒月君が恐れ入ると、独仙君はそうさと云わぬばかりの顔付で話を進める。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大凡おおよそ物はその好む所にあつまる、彼の艱難かんなんの如きも、またいずくんぞ彼が自ら好んでこれを致したるに非ざるきを知らんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
或ひとこたえて曰く、申棖しんとうありと。子曰く、とうや慾あり。いずくんぞ剛なるを得んと。——公冶長篇——
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いずくんぞく 一けいこんせん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すなわち今日においての西野文太郎を出し、来島恒喜くるしまつねきを出したるものまたいずくんぞ彼が熱血の余瀝よれきならざるを知らんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)