そゝ)” の例文
高時殿はどうせ家を滅ぼす奴だから難有ありがたい人物ではなからうけれど、一族二百人枕を並べて自殺した最期は心あるものの涙をそゝぐ種だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
そゝぐ涙に哀れをめても、飽くまで世を背に見たる我子の決心、左衞門いまは夢とも上氣とも思はれず、いとしと思ふほど彌増いやまにくさ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
或は蒲生君平となりて涙を山陵の荒廃堙滅いんめつそゝがしめ、勤王の一気は江戸政府の鼎猶隆々たる時に在りて既に日本の全国に磅礴はうはくしたりき。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
少女は驚き感ぜしさま見えて、余が辞別わかれのためにいだしたる手を唇にあてたるが、はら/\と落つる熱きなんだを我手のそびらそゝぎつ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
我は手を被中ひちゆうより伸べてち鳴らし、聲を放ちてアヌンチヤタと呼びぬ。次に思ひ出したるは我が心血をそゝぎたる詩なり。
それが村で持余された重右衛門の亡骸なきがらを焼く烟かと思ふと、自分は無限の悲感に打れて、殆ど涙もつるばかりに同情をそゝがずには居られなかつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あたかも狂人が其狂気の発したるとき、まさに暴れんとしてたつが如く、怒れるまなこに朱をそゝぎ口角に泡を吹きて立上り
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
愈々いよ/\狂人の取扱いにしようと致しますと、長二は案外に立腹をいたしまして、両眼りょうがんに血をそゝぎ、額に青筋を現わし拳を握りつめて、白洲の隅まで響くような鋭き声で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
筆者は薄幸なりし彼女の半生に一掬いっきくの涙をそゝぐにとゞまって、敢て彼女を責めようとはせぬ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
め来りて一夜悲悼ひたうへず、児の血をそゝぎしところに行きて己れを殺さんとす、己れを殺す為に、その悲しき塲所に独り行くことを得ず、かへつて路傍の人を連れ立てんことを請ふ
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そのたかんなのごとき巌に纏ふこと七巻半、鱗甲りんかふ風にうごき、朱をそゝげる眼は天を睨む、時に鎮西八郎射てこれをたふし、その脊骨数箇を馬に駄す、その馬重きに堪へず、嘶いて進まざりしところ
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
俊男としをはまた俊男で、素知らぬ顏でふりそゝぐ雨に煙る庭の木立こだちを眺めてゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
意気軒昂けんかう、面色朱をそゝぎたる侯爵は忽然こつぜんとして山木を顧みつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
われら今常に之をそゝぐ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
やわらにおとなくそゝいで
わなゝき (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
まなこしゆそゝき、きん
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
嬢様も此人の真摯まじめな偽りのない真情まごころには余程動かされて同情の涙をおそゝぎなすつたらしいが、実に御道理ごもつともだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
時頼の有樣を觀て熟〻つら/\思ふやう、扨も心得ぬ六波羅武士が擧動ふるまひかな、父なる人、祖父なる人は、昔知らぬ若殿原に行末短き榮耀ええうの夢を貪らせんとて其の膏血はよもそゝがじ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
漸くにして、ベルナルドオとアヌンチヤタとの上に想ひ及ぶとき、われはの邊のうるほふを覺えき。涙にやありし、又窓の下なる石垣にあたりし波の碎け散りて面にそゝぎたるにやありし。
一同は今水を学校の屋根にそゝがうとして居るので、しきりに二箇の管を其方向に向けつゝあるが、一度ひとたびはそれが屋根の上を越えて、遠く向ふに落ち、一度は見当違ひに一軒先の茅葺かやぶき屋根を荒し
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
一個の人間としての彼の悩みにうたた同情をそゝがざるを得ない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
エリスが生けるかばねを抱きて千行ちすぢの涙をそゝぎしは幾度ぞ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)