さゞなみ)” の例文
夕日ゆふひは低く惱ましく、わかれの光悲しげに、河岸かし左右さいうのセエヌがはかは一杯いつぱいきしめて、むせんでそゝさゞなみに熱い動悸どうきを見せてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
(國民新聞)讀者の沒理想をたのみて、時文評論を評論ならぬ評論となし、記實となすと聽きて、これに服したるはさゞなみ山人なり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
何しろ学問は打棄うつちやつて西鶴が么麼どうしたの其碩きせきが么麼したの紅葉はえらいのさゞなみは感心だのと頻りに肩を入れられるさうナ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
島を囲む黒いさゞなみがぴたぴたとそのいしずゑを洗ふ如くに、夜よりもくらい無数の房々がその明るい大広間を取り巻いてゐる。
堤の上はそよ吹く風あれど、川面かはづらさゞなみだに立たず、澄み渡る大空の影を映して水の面は鏡のやう。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そこからはそよ/\と風にさゞなみをうつてゐる広い青田が一と目に見わたされ、松原の藁屋わらやの上から、紺碧こんぺきの色をたゝへた静かな海が、地平線を淡青黄色うすあをぎいろの空との限界として
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのとき、遠く、しかもはつきりした荒々しい響きがその美しい流の音や囁きを壞してしまつた——パカ/\と音高く響く金の音が、やはらかなさゞなみの立つ音を消してしまつた。
しかし、さういふことが、さういふ表面のさゞなみが、どれだけの意味を持つてゐるのであらうか。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
対う河岸は宗右衛門町で、何をする家か、灯がゆら/\と動いて、それが、螢を踏み蹂躙にじつた時のやうに、キラ/\と河水に映つた。初秋の夜風は冷々ひえ/″\として、河にはさゞなみが立つてゐた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
さゞなみ一つ立たぬ水槽の底には、消えかゝる星を四つ五つちりばめた黎明の空が深く沈んでゐた。清冽な秋の曉の氣が、いと冷かに襟元から總身に沁む。叢にはまだ夢の樣に蟲の音がしてゐる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さいさゞなみ鴛鴦おしどりうかべ、おきいはほ羽音はおととゝもにはなち、千じん断崖がけとばりは、藍瓶あゐがめふちまつて、くろ蠑螈ゐもりたけ大蛇おろちごときをしづめてくらい。数々かず/\深秘しんぴと、凄麗せいれいと、荘厳さうごんとをおもはれよ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さゞなみのこのもかのもの時折に光りまた消え照り光り消え
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さゞなみるごとく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
顏には希望があり、色には活々いき/\とした力があつた。そして眼はまるで成就の源泉を見て、きら/\したさゞなみから輝きを借りたかのやうに見えた。私は屡々自分の主人と會ひたくなかつた。
潜笑しのびわらひの声はさゞなみの様に伝はつた。そして新しい密語ひそめきが其にまじつた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
のばよこたへ、膝節ひざぶしも足も、つきいでゝ、さゞなみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かぜとゝもにくろさゞなみ立蔽たちおほつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さゞなみうつたる連着懸れんぢやくがけ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)