ぱっ)” の例文
今はこうと、まだ消え果てぬ夫人にすがると、なびくや黒髪、ぱっと薫って、つめたく、すずしく、たらたらと腕にかかる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其切先そのきっさきあやうくも巡査の喉をかすめて、背後うしろの岩に戞然がちりあたると、ぱっと立つ火花に敵は眼がくらんだらしい。其隙そのすきを見て巡査は再び組んだ。せいの低い敵は巡査の足を取った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これまた慌てて帰ったとの事だが、この噂がぱったって、客人の足が絶え営業の継続が出来ず、遂々とうとうこのいえ営業しょうばいやめて、何処どこへか転宅てんたくしてしまったそうだ、それに付き或る者の話を聞くに
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
その段を昇り切ると、取着とッつき一室ひとま、新しく建増たてましたと見えて、ふすまがない、白いゆかへ、月影がぱっと射した。両側の部屋は皆陰々いんいんともしを置いて、しずまり返った夜半よなかの事です。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敵は血にみたる洋刃をふるって、更に市郎を目がけて飛びかかって来たが、眼前めさきあだかも燐寸の火がぱっと燃ゆるや、彼は電気に打たれたように、にわかに刃物をからりと落して、両手で顔をおおったまま
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
霧の中にわらいにじが、ぱっと渡った時も、独り莞爾にっこりともせず、傍目わきめらず、同じようにフッと吹く。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぱっとしちゃあ、お客にまで気を悪くさせるから伏せてはあろうが、お前さんだ、今日は剃刀をつかわねえことを知っていそうなもんだと思うが、うちでも気がつかねえでいるのかしら。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっと揺れ、ぱっと散って、星一ツ一ツ鳴るかとばかり、白銀しろがね黄金こがね、水晶、珊瑚珠さんごじゅ透間すきまもなくよろうたるが、月に照添うに露たがわず、されば冥土よみじの色ならず、真珠のながれを渡ると覚えて
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土曜日は正午ひるまでで授業が済む——教室を出る娘たちで、照陽女学校は一斉に温室の花を緑の空に開いたよう、ぱっうららかな日を浴びた色香は、百合よりも芳しく、杜若かきつばたよりも紫である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病人を包んだ空気が何となくぱっとひらくという国手せんせいだから、もう大丈夫。——
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見上げた破風口はふぐちは峠ほど高し、とぼんと野原へ出たような気がして、えんに添いつつ中土間なかどまを、囲炉裡いろりの前を向うへ通ると、桃桜ももさくらぱっと輝くばかり、五壇ごだん一面の緋毛氈ひもうせん、やがて四畳半を充満いっぱいに雛
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほこりやら、砂やら、ぱっと立って、がたがたと揺れて曇る。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)