かわ)” の例文
かほどに多くの学生から尊敬される先生は、日本の学生に対して終始しゅうしかわらざる興味をいだいて、十八年の長い間哲学の講義を続けている。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男の声はむかしとはかわりのないものであったが、筒井はすぐに答えることの軽卒さを身に感じた。それにしても今宵とは誰のいたずらであろう。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
渋江氏と比良野氏との交誼こうぎが、後に至るまでかくの如くに久しくかわらずにいたのを見ても、婦壻よめむこの間にヂソナンスのなかったことが思い遣られる。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いけませんよ。あなたがあんまりちやほやするから、増長してしようがないんです。このごろ大変かわって来ましたよ。あなたが悪いんです。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
訣別にあたり、報告書には記載しなかったちょっとした隠れた事実をお伝えして、かわらざるあなたの友情への感謝のしるしにしたいと思うのです。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
死に至るまでかわらなかった・極端きょくたんに求むる所の無い・純粋じゅんすいな敬愛の情だけが、この男を師の傍に引留めたのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
癖のかわらないことは勉強が足りないのだろうけれども、私は、前にも云ったとおり、こんな日向ぼっこをしているような文化生活は困ってしまうのだ。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼は決して裏切ることもかわることもなかった。弟子達でしたちにとっても、リストほど親切な師はあり得ず、友人達にとって、リストほどたのもしい男はなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
私の耳に聞えた言葉は三十年前とほとんどかわるところのない響きをもつ同じ言葉であったにしても、しかし、この雰囲気はあまりにも冷たく陰惨であった。
早稲田大学 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
出て行くお勢の後姿を目送みおくって、文三は莞爾にっこりした。どうしてこう様子がかわったのか、それを疑っているにいとまなく、ただ何となく心嬉しくなって、莞爾にっこりした。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
偉人として、人の称讃しょうさんを受けるくらいのことはそうむずかしいことではないとはっきり感じたのだった。それ以来清逸の自分に対する評価はかわることがない。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家出をするということが、果して、多年かわらぬこの父の恩愛と努力と克己に酬いる唯一の道であろうか。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
予自身の境地はかわらぬが。「夜とぼし」と云うものが始まった。石油の明りで、田甫の間を泥鰌どじょうを刺して歩くのである。点々として赤い燈の揺れて行くのはロマンティクである。
窓からの風景はいつの夜もかわらなかった。喬にはどの夜もみな一つに思える。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
結婚の前後一時性の満足は沢山ありましょうが終生かわらざる永久性の満足は滅多めったにありますまい。つまり覚悟のない人たちが寄り合って互に不足ばかりいうから家庭の幸福を享けられないのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
永遠にかわることのない恋愛だの真実だのと
離るるとも、ちかいさえかわらずば、千里を繋ぐつなもあろう。ランスロットとわれは何を誓える? エレーンの眼には涙があふれる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし翌日の午後駅へついてみると、葉子姉妹きょうだいや弟たちも出迎えていて、初めての時と別にかわりはなかった。彼は再び例の離れの一室に落ちついた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またこういう事も有る※ふと気がかわって、今こう零落していながら、この様な薬袋やくたいも無い事にかかずらッていたずらに日を送るをきわめのように思われ、もうお勢の事は思うまいと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やはりわたしだちは種々いろいろなことを考えなければならなかったことに気が付いたんですもの——お父さまだってむかしとかわらない、渝ったものはこんな湖べりに来ただけですもの。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
とはにかわらぬちかいを願へど
普通の都会人は、より少なき程度に於て、みんな芸妓ではないか。代助はかわらざる愛を、今の世に口にするものを偽善家の第一位に置いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殺風景な新開の町にも、年の瀬の波は押し寄せて、逆上のぼせたような新吉の目の色がかわっていた。お国はいつの間にか、この二、三日入浸りになっていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二三分時ぷんじ前までは文三は我女わがむすめの夫、我女は文三の妻と思詰めていた者が、免職と聞くより早くガラリ気がかわッて、にわか配合めあわせるのが厭に成ッて、急拵きゅうごしらえ愛想尽あいそづかしを陳立ならべたてて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そしてその定明の声は、自分で何をするか分らないいましめを、自らにも、経之にも叫びあうようなものだった。やがてそれは同様な兄経之のたかぶった気持と、少しのかわりのないものだ。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
Druerie と呼ぶ。武夫もののふが君の前に額付ぬかずいてかわらじと誓う如く男、女の膝下しっかひざまずき手を合せて女の手の間に置く。女かたの如く愛の式を
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出来る時分にあまり世話をしておかなかったことが、心に省みられたからでもあろうし、このごろ様子や心持のすっかりかわっためいの身のうえを知るのもいとわしいように見えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少しもかわらずに事があるごとに私を引き立て、名前を引きずり出して極まりの悪いくらい、友情は厚くその野性は至純なものだといい、彼の全集のどの頁にも私の名前があるのを見て
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「今日のみの縁とは? 墓にかるるあの世までもかわらじ」と男は黒きひとみを返して女の顔をじっと見る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
足音は相かわらず次から次へとつづき、背中をはたいてくるのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
何か話して歩いているうちに、ふと笹村の気がかわって来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼らは人並以上にむつましい月日をかわらずに今日きょうから明日あすへとつないで行きながら、常はそこに気がつかずに顔を見合わせているようなものの、時々自分達の睦まじがる心を
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)