水引みずひき)” の例文
福包み(かや勝栗かちぐりなどを紙に包んで水引みずひきを掛けて包んだもの、延命袋えんめいぶくろのようなもの)などを附けてかど飾りにしたものです。
そのふたの上には、熨斗のし屋の看板みたいなでっかい熨斗をはりつけ、胴中を、これも水引みずひき屋の看板みたいなべら棒に大きな水引でくくってあった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その翌日、日比野の女中が、水引みずひきをかけた菓子折の箱を持って、蝙蝠を貰った礼を云いにお涌の家へ来た。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
水引みずひき慰斗のしとをかけた桶の中には、青笹を蒲団に、巨大な赤鯛が二尾、イセエビが一匹、鯛の肌のうえには、「祝儀」の二字を太い筆でかいた奉書包み、それには
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
卓子台ちゃぶだいの上に、一尺四五寸まわり白木の箱を、清らかな奉書包ほうしょづつみ水引みずひきを装って、一羽、紫の裏白蝶うらしろちょうを折った形の、珍らしい熨斗のしを添えたのが、塵も置かず、据えてある。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏のことで白扇はくせんをサラリと開くとふところから贈物の目録もくろく書と、水引みずひきをかけた封金を出して乗せたが
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この上は正面から魚屋へ押し掛けて、徳蔵夫婦の様子を探るよりほかは無いと思ったので、半七はそこらの紙屋へ寄って、黒い水引みずひきと紙とを買って香奠こうでんの包みをこしらえた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
奥座敷の神棚の下には大勝始め諸方からの祝いの品々が水引みずひきの掛ったままで積重ねてあった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生徒にむかって金二分持て来い、水引みずひきも要らなければ熨斗のしも要らない、一両もって来ればつりるぞとうように触込ふれこんでも、ソレでもちゃんと水引を掛けて持て来るものもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
十一日 垣にぶら下がっていた南瓜かぼちゃがいつの間にか垂れ落ちて水引みずひきの花へ尻をすえている。
窮理日記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これも「去年は降るほどなった」そうだが高いところに七つ八つあるばかり。下草をかきわけてやっと三つ四つさがしだした。堅くて小さいがかおりは高い。ぐみ、水引みずひきの花。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
立派な水引みずひきがかかっているので、それをはずして中を改めると、五円札が二枚入っていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああしてこねたりのばしたりしているところを見ると、まるで餅屋だな。……おい、見ろ、むこうの鞴のそばでは、金を水引みずひきのように細長く引きのばして遊んでいる。……さあ、帰ろう。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すすきしろがねの穂を延ばし、水引みずひきの花は紅に、芙蓉ふようの花は薄紅うすべにに、竜胆りんどうの花は空色に、雑草のに間に咲き乱れ、風に乗せられて匂うのは、木犀もくせいの香か睡蓮すいれんの香か、時雨のような虫の声は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勝久は看板を懸けてから四年目、明治十年四月三日に、両国中村楼で名弘なびろめの大浚おおざらいを催した。浚場さらいば間口まぐちの天幕は深川の五本松門弟じゅう後幕うしろまく魚河岸問屋うおがしどいや今和いまわと緑町門弟中、水引みずひきは牧野家であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
枕の上には銀の水引みずひきで蝶形のまとをすえ、席をさだめておうぎを持つ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馬鹿な……オンチだなあ……みんな期待しているんじゃねえか。鼻の先に水引みずひきがブラ下がっているんじゃねえか。今年の起業祭には会社が五千円ぐらいハズムってんだから懸賞の金だって大きいにきまっているんだぜ。何故、取らねえんだ……オンチ……」
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その翌日、日比野の女中が、水引みずひきをかけた菓子折の箱を持つて、蝙蝠をもらつた礼を云ひにお涌の家へ来た。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
父上はこれに一々水引みずひきをかけ綺麗にはしを揃えて、さて一々青い紙と白い紙とをしいた三宝へのせる。あたりは赤と白との水引の屑が茄子なすの茎人蔘にんじんの葉の中にちらばっている。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
起臥おきふしの、徒然つれづれに、水引みずひきの結び方、熨斗のしの折り方、押絵など、中にも唯今の菊細工——人形のつくり方を、見真似みまねに覚えもし、教えもされましたのが、……かく持参のこの手遊品おもちゃで。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木犀、萩、水引みずひき、鶏頭が、次々に屋敷の庭に咲き、八百屋の店頭には八ツ頭、唐の芋の新鮮なのが現われたり、魚屋の盤台には落ち鮎、かますなどが、あぶらののった体を横たえたりした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただし金を納むるに、水引みずひきのしを用ゆべからず。
慶応義塾新議 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すすき蓬々ほうほうたるあれば萩の道に溢れんとする、さては芙蓉ふようの白き紅なる、紫苑しおん女郎花おみなえし藤袴ふじばかま釣鐘花つりがねばな、虎の尾、鶏頭、鳳仙花ほうせんか水引みずひきの花さま/″\に咲き乱れて、みちその間に通じ
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)