村方むらかた)” の例文
村方むらかたの家々にてはあわてゝ戸を閉じ子供は泣く、老人はつえを棄てゝにげるという始末で、いやもう一方ひとかたならぬ騒ぎでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「旦那様がそのお方だとは、夢にも知りましねえで……ただ、村方むらかたでそういううわさをしとりますもんで……お気をお悪くなすっちゃ困るでやすが」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
名主だった松井の先々代に支配されていた村方むらかた一般の子孫なので、ものの考え方や生活感情に、習俗とでもいうような共通したものがあるらしい。
春の山 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お山の下の恐しい、あの谿河たにがわを渡りました。村方むらかたに、知るべのものがありまして、其処そこから通いましたのでございます。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しからば村方むらかたの者どもは、山の平に廻って止宿せよと申聞け、自分だけ其場に止宿したと記している。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「かうほかの税が高いんやもん、天滿山官林の松茸ぐらゐ、村方むらかた無代たゞ呉れたてさゝうなもんや。それを一兩でも高う賣らうと、競り上げるのは、官も慾が深すぎる。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
追い追いと人口も繁殖する中古のころになって、犬山の石川備前守いしかわびぜんのかみがこの地方の管領であった時に、谷中村方むらかたの宅地と開墾地とには定見取米じょうみとりまい、山地には木租ぼくそというものを課せられた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はずんだところで調布ちょうふあたりから料理を呼んでの饗宴ふるまいは、唯親類縁者まで、村方むらかた一同へは、婿は紋付で組内若くは親類の男に連れられ、軒別に手拭の一筋半紙の一帖も持って挨拶に廻るか
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
村方むらかたの方から驀然まっしぐらにこの古市の町へ走り込んだムクのあとを追いかけて来るのが何十人という人、得物えものを持ち、石や瓦を抱えている。前には役人連、そのあとから番太ばんた破落戸ごろつき、弥次馬のたぐいが続く。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
極め甚右衞門外兩人の者も其の夜は寺にとまりける此日は三月節句の事なれば村方むらかた所々じよ/\にて宵の中は田舍唄ゐなかうた又は三味線などひきて賑ひ名主九郎右衞門方へも組頭くみがしら佐治右衞門周藏しうざう忠内ちうない七左衞門等入來いりきたり座頭に儀太夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狹霧さぎり立つ月の夜さりは村方むらかたの野よかうばしく麥こがし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
清「おっかねえ、女をまア、なんてエ、人を殺すったって村方むらかたの土手じゃアねえか、ウーン怖かなかんべえ、ウーンうした」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……さん子さん、一寸ちょっとうたつており。村方むらかたで真似をするのに、いゝ手本だ。……まうけさしてもらつた礼心れいごころに、ちゃんとしたところを教へてあげよう。置土産おきみやげさ、さん子さん、お唄ひよ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
是にはやはり古風な村方むらかたで、今でも稀には見られるように、数ある仕事着の中の最も新しい一つを、着て出ることを許すのがよいかと思うが、そうするとあらゆる職業別を超越した
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
言うまでもなく、村方むらかた総代仲間が山林規則を過酷であるとして、まさに筑摩県庁あての嘆願書を提出するばかりにしたくをととのえたことが、支庁の人たちの探るところとなったのだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
狭霧さぎり立つ月の夜さりは村方むらかたの野よかうばしく麦こがし
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
〆太鼓の男 稽古中けいこちゅうのお神楽で、へい、囃子はやしばかりでも、大抵村方むらかたは浮かれあがっておりますだに、面や装束をつけましては、ばば媽々かかまでも、仕事かせぎは、へい、手につきましねえ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月や春、北之幸谷きたのかうや村方むらかたを舞ふ獅子舞の笛もこそ行け
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
男衆も女衆も、その火を消すに、帳場から、何から、家中うちじゅうきりもりをしてござった彼家あのいえのお祖母様ばばさまが死なしゃった。人の生命いのちを、火よりさきへ助ければいものと、村方むらかたでは言うぞいの。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちっ日数ひかずが経ってから、親仁どのは、村方むらかた用達ようたしかたがた、東京へ参ったついでに芝口しばぐち両換店りょうがえやへ寄って、きたな煙草入たばこいれから煙草の粉だらけなのを一枚だけ、そっと出して、いくらに買わっしゃる
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)