明星みょうじょう)” の例文
「見よ、見よ。凶雲きょううんぼっして、明星みょうじょう出づ。白馬はくばけて、黄塵こうじんめっす。——ここ数年を出でないうちじゃろう。青年よ、はや行け。おさらば」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには「明星みょうじょう」という文芸雑誌だの、春雨しゅんうの「無花果いちじく」だの、兆民居士ちょうみんこじの「一年有半ねんゆうはん」だのという新刊の書物も散らばっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
友の手紙には恋のことやら詩のことやら明星みょうじょう派の歌のことやら我ながら若々しいと思うようなことを罫紙けいしに二枚も三枚も書いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
うすモモ色の空には、よいの明星みょうじょうが明るく、美しく光っていました。風はおだやかで、空気はすがすがしく、海のおもては鏡のように静かでした。
潤三郎がお兄様のことを書いたのは『明星みょうじょう』の紀念号からですが、その時はまだ病気がなおり切らず、鈴木春浦しゅんぼさんが来て筆記せられたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
女はにも云わずに眼を横に向けた。こぼれ梅を一枚の半襟はんえりおもてに掃き集めた真中まんなかに、明星みょうじょうと見まがうほどの留針とめばり的皪てきれき耀かがやいて、男の眼を射る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あたかもしその日は与謝野鉄幹よさのてっかん子を中心とせる明星みょうじょう派の人々『両浦島』を喝采かっさいせんとて土間桟敷に集れるあり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かつて、雑誌『明星みょうじょう』の五人の女詩人、鳳晶子おおとりあきこ、山川登美子、玉野花子、茅野雅子ちのまさこと並んで秀麗うつくしいひとであって、玉琴たまごとの名手と聞いていた人の名をいって見た。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すなわち書を鉄幹に贈つて互に歌壇の敵となり我は『明星みょうじょう所載しょさいの短歌を評せん事を約す。けだし両者を混じて同一趣味の如く思へる者のためにもうを弁ぜんとなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
けの明星みょうじょうが立ちあがって、女の子にひよこの足を一本くれました。そして、こういいました。
釈迦しゃか明星みょうじょうの光を仰いで悟りをひらいたといわれています。ニュートンは林檎の落ちるのを見て引力いんりょくの法則を発見したといわれています。いずれも偶然といえば偶然であります。
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
家を駈け出すと浜辺の広い原、宵の明星みょうじょうが高く天神山というのから東へはずれて光っている。まばらに見える漁師の家の屋根、どこでもまだかまどけむりを上げているところもありません。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さしもの雨も残りなく晴れ渡って、軒のしずくに宵の明星みょうじょうがきらめいていた。月の出にも間があり、人の顔がぼんやり見えてなんとなく物のの立ちそうな、そや彼かとゆうまぐれだったという。
ふつつかながら斯界しかいに於きまして、仏蘭西フランスのパオロ・オデロイン夫人と相並んで、邪妖探偵劇の二明星みょうじょうとキワメを附けられております天才女優、天川呉羽嬢が、その最後の独白、独演において
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ああ、これは何という奇蹟でございましょう。しかし皆さん、これは奇蹟などという馬鹿げたものではございません。これこそ吾が科学界の明星みょうじょう、戸波博士の御発明になる怪力線かいりょくせん偉力いりょくでございます。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして、ほの赤い空に、よいの明星みょうじょうが、それはうつくしくきらきら光っていました。空気はなごやかに澄んでいて、海はすっかりないでいました。
驚いて箸を持ったまま、思わず音のする彼方かなたを見返ると、底びかりのする神秘な夜の空に、よい明星みょうじょうのかげが、たった一ツさびしに浮いているのが見える。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
丘のうえにはあけ明星みょうじょうが、まだはっきり光っていた。すべての人影が去った後で、そこへ飛び出した伊織は
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南江堂に可有之候。『明星みょうじょう』は当方へも新年に投稿可致旨いたすべきむね申来候。然し何もつかわすべきものも無之候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
今夕の飯御馳走ごちそう不足にて不平の気味なり。母は今来たる雑誌の封を破つて、傍にある『ホトトギス』募集句の山なせる上に置きながら、今度の『明星みょうじょう』は表紙の色が変つた、といふ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
明星みょうじょうをあたまにつけたやりは、手からころげ落ちて、その目はぼんやりと月の世界をながめていました。
わたくしは枯蘆の中の水たまりによい明星みょうじょう熒々けいけいとして浮いているのに、覚えず立止って、出来もせぬ俳句を考えたりするうち、先へ行く女の姿は早くも夕闇の中にかくれてしまったが
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雑誌『明星みょうじょう』は体裁の美麗びれいなる事普通雑誌中第一のものなりしが遂に廃刊せしよし気の毒の至なり。今廃刊するほどならば最後の基本金募集の広告なからましかば、死際一層花を添へたらんかと思ふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)