方丈ほうじょう)” の例文
ある者は方丈ほうじょう食饌しょくせんをつらね得、ある者は粗茶淡飯にも飽くことあたわざるの現象に至っては、全くこれを説明し得ざるものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
あなた一人で往っていらっしゃい、しかし、方丈ほうじょうへだけは往ってはいけないですよ、あすこには坊主が説経してますから、きっと布施を
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奥まった方丈ほうじょうの一室を閉めきって、住職はその日はいとど細心に、誰が来ても留守と断らせ、ただひとりの客、人見又四郎と会っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御彼岸おひがんにお寺詣てらまいりをして偶然方丈ほうじょう牡丹餅ぼたもちの御馳走になるような者だ。金田君はどんな事を客人に依頼するかなと、椽の下から耳を澄して聞いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
松雲が寺への帰参は、くつばきで久しぶりの山門をくぐり、それから方丈ほうじょうへ通って、一礼座了いちれいざりょうで式が済んだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たつ女と畑姉弟は、方丈ほうじょうと同じ棟にある客間へとおされ、そこで原田甲斐の来るのを待つことになった。
かれは近所の善覚寺ぜんかくじという寺へかけ付けて、方丈ほうじょう円智えんちという僧をよび起して相談することにした。
海老茶えびちゃはかま穿かれた千世子殿が、風呂敷包みを抱えたままこの方丈ほうじょうに這入って来られまして
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
清三は来週から先方のつごうさえよければ羽生の成願寺じょうがんじに下宿したいという話を持ち出して、若い学問のある方丈ほうじょうさんのことや、やさしい荻生君のことなどを話して聞かした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この事件はついに、泰叡山たいえいざん方丈ほうじょうを煩わして、解決をつけることになったのは幸いです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこに方丈ほうじょうの壇をむすび、何かの符を書いてそれをくと、たちまちに符の使い五、六人、いずれも身のけ一丈余にして、黄巾こうきんをいただき、金甲きんこうを着け、ほりのあるほこをたずさえ
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
かつて彼女の写真を見るに、豊頤ほうい、細目、健全、温厚の風、靄然あいぜんとしておおうべからざるものあり。母の兄弟に竹院和尚おしょうあり、鎌倉瑞泉寺の方丈ほうじょうにして、円覚寺の第一坐を占む、学殖がくしょく徳行衆にぬきんず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
僧たちはすぐ昭青年をつかまえて、はだかのまま方丈ほうじょうへ引立てて行きました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これは、方丈ほうじょうさん、お早ようございます」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
この席はこれでった。そしてもとの方丈ほうじょうへ移ると、家康はすぐ待たせてある物見の男を、縁さきへ招いて、あちこちの情勢を聞きとった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人びとがへとへとに疲れて、やっと西門外へ往ったときには、道人はもう方丈ほうじょうだんを構えていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と文作は今一度畳の上に額をすりつけると、フラフラになったような気もちで方丈ほうじょうを出た。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
安之助はすこやかに成長していった、辛苦のなかに育ちながら、気質ものびのびとしていたし、年と共にからだつきも人にすぐれてたくましくなった。学問には満性寺まんしょうじ方丈ほうじょうへ通っていた。
日本婦道記:箭竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこに方丈ほうじょうの壇をむすび、何かのお符を書いてそれをくと、たちまちに符の使い五、六人、いずれも身のたけ一丈余にして、黄巾こうきんをいただき、金甲きんこうを着け、彫り物のあるほこをたずさえ
「歴史家の説によれば羅馬人ローマじんは日に二度三度も宴会を開き候由そろよし。日に二度も三度も方丈ほうじょう食饌しょくせんに就き候えば如何なる健胃の人にても消化機能に不調をかもすべく、従って自然は大兄の如く……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清三はこう言って、前にすわっている成願寺じょうがんじ方丈ほうじょうさんの顔を見た。かねて聞いていたよりも風采のあがらぬ人だとかれは思った。新体詩、小説、その名は東京の文壇にもかなり聞こえている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
故に、上下のわかちなく非常の装いをして、榊原康政さかきばらやすまさなども、素槍すやりをかかえて、自身、方丈ほうじょうの外に立っていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……和尚はすでに八十八歳になっていたが、ますます健康で、日に二升の酒を飲み、冬は猪鹿の類、夏は鯉鰻を欠かさずべ、相変らず方丈ほうじょうに寝そべって、肱枕をしながら酒臭い息を吐いていた。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
▼聴取場所 如月寺方丈ほうじょうに於て
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
秀吉は、秀政とともに、方丈ほうじょうへ入った。——ちょうどその頃である。岡山道の飯倉の木戸で、早馬を降りた一人の使いが、番の武者たちに囲まれていたのは。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうと、九兵衛はひらりと方丈ほうじょうの庭を出て、本堂の横から山門へななめにすたすたと踏み出しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ、黒くき磨いてある方丈ほうじょうの大廊下の方から、秀吉のすがたが見えた。後ろについて来る家臣たちも、置去りにするほど、彼の足の運びは、無造作で早かった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おや、当院の鐘は、どうしたのじゃ」西塔の如法堂にょほうどうで、学頭の中年僧が、方丈ほうじょうから首を出した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
方丈ほうじょう庫裡くり、いずこも、掃き清めてあってきれいである。ただ、内陣にあった信玄の木像がない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その鼻寺の和尚と、どういう旧縁があるのか、ほの暗い行燈あんどんを近くよせて、奥の方丈ほうじょうで酒を酌み合っていたのは、今、城下に人相書にんそうがきの行き渡っている日本左衛門でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしていま方丈ほうじょうのうちで、住持とともに雑煮ぞうにを祝っていた介三郎の所までわざわざ行って
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「で。方丈ほうじょう様へおすがりして、ずっと、あれ以来、身をかくまっていただいておりましたのです」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外は、鼻をつままれても分らない闇だったが、伽藍がらんのうちには、あかい燈明や庫裡くりの炉の灯や、方丈ほうじょう短檠たんけいがゆらぐのがのぞかれて、およそそこにする人影も淡く見てとれる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしうに目醒めていることは確実である。方丈ほうじょうかどこか近い所で大きな笑い声がしているからだ。かかる応対をうけるのは、中川瀬兵衛にしても高山右近たりとも甚だ心外らしかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「きのうから鼻寺の方丈ほうじょうに居るのだが、何しろ、あの和尚の法達というやつは、悪党仲間でも腹の知れねえ人間だから、いつ寝返りを打って、役人の方へ親分を売り込まねえとも限らない」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、方丈ほうじょうへも挨拶をし、駈け出すように、山門から出て行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声を聞くと、方丈ほうじょうの窓を、さらりと開けて——
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは、方丈ほうじょうさま。ようこそおせわしいなかを」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、老先生は方丈ほうじょうの窓から、寺の室へ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
方丈ほうじょうへ踏みこんでみろ」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)