撫下なでおろ)” の例文
二人は恐る恐る霊公の顔色をうかがった。二人の見出したものは、底意の無さそうな、唯淫らな、脂下やにさがった笑い顔である。二人はホッと胸を撫下なでおろした。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
えら結納ゆひなふのお取交とりかはせも致さんと言れて忠兵衞むね撫下なでおろし夫拜承うけたまは安堵あんどしました實は云々これ/\若旦那に誓つて置し事なればし御承知しようちのない時は如何いかゞなさんとはらの中で一方ならず心配を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
にかく市郎の身につつがなかったのは何よりの幸福さいわいであったと、お葉は安堵の胸を撫下なでおろすと同時に、我が眼前めのまえに雪を浴びて、狗児いぬころのようにうずくまっている重太郎を哀れに思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
森田氏は履刷毛くつばけで鼻先を撫下なでおろされたやうな顔をした。成程考へてみると、自分はバビロンの塔を知つてゐるが、それを知つてゐるからと言つて画はうまけさうにも思へない。
と二包の薬を与えけるに大原はがたしとて帰り去りぬ。お登和嬢も窃に胸を撫下なでおろしたり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼は長きひげせはしみては、又おとがひあたりよりしづか撫下なでおろして、まづ打出うちいださんことばを案じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一同安堵あんどの胸を撫下なでおろした事は既報の通りである。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と胸を撫下なでおろ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「イヤ、違ふ、違ひます。成程東京のもひどいにはひどいが……」樺島氏は同じやうな事を言つて、同じやうに鼻の先を撫下なでおろした。「しかし僕の見た所では大阪よりはましのやうです。」
來りしやまづ此方こなた這入はいられよと云ふに初瀬留は御免成ごめんなされと戸口を入り漸々やう/\むね撫下なでおろし餘りの御懷おなつかしさに今宵こよひくるわ逃亡かけおちして此處へ來りしと物語ものがたりなど彼是なす中程なく夜もあくるにぞ喜八は起出おきいで引窓ひきまど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
のが漸々やう/\我家へ歸りてむね撫下なでおろし誠に神佛の御蔭おかげにてたすかりたりと心の内に伏拜ふしをがみ吉之助には火事にて驚きたりといつはり彼の八十兩の金は戸棚とだなすみに重箱有りける故其中へいれおきすでやすまんとする時表の戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)