掻毮かきむし)” の例文
雑貨店へ現われた時には、宙を掻毮かきむしるような奇怪な身ぶりをしたというが、これは店員に強い印象を与えるためのしぐさに相違ない。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
振向ふりむざまに、ぶつきらぼうつて、握拳にぎりこぶしで、ひたいこすつたのが、悩乱なうらんしたかしらかみを、掻毮かきむしりでもしたさうにえて、けむりなび天井てんじやうあふいだ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今度こんどは、おまえ眼玉めだま掻毮かきむしるかもしれない。ラプンツェルはもうおまえのものじゃアい。おまえはもう、二と、彼女あれにあうことはあるまいよ。
おれにゃ分からねえ‼」一人の荒くれが頭の毛を掻毮かきむしりながら喚いた、「全体どっちが本当のジョオジなんだ、ええくそっ、いい加減にしろ‼」
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
若旦那わかだんなは、くわつと逆上のぼせたあたまを、われわすれて、うつかり帽子ばうしうへから掻毮かきむしりながら、拔足ぬきあしつて、庭傳にはづたひに、そつまどしたしのる。うちでは、なまめいたこゑがする。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おめえが今さら泣くよりも、お絹のやつが自分から——おらを売ってくれろと云われた時にゃ、男のおらが……はらわた掻毮かきむしられるような思いだっただ」
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかも、先方さきは、義理ぎり首尾しゆびで、差當さしあたつてはわるところを、お前樣まへさま突詰つきつめて、つて、かきへいも、押倒おしたふ突破つきやぶる、……ちからで、むね掻毮かきむしるやうにあせるから、をなごせまつて
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひどい貧乏の沼で生立った銀太郎にとっては、この夢想は心臓を掻毮かきむしられるほど快いものであった。——その黄金の夢が、しかし大長丸の不注意で粉々に砕かれてしまったのだ。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その掻毮かきむしるやうにまどけた、が、真暗まつくらである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)