捨石すていし)” の例文
柳と同じやはらを持つた、夜目には見きの附かない大木が岸の並木になつて居る。あちこちに捨石すていしがいくつも置かれてあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私は、もやの中へ消えて行く、彼のうしろ姿を見送りながら、さんさんと降りそそぐ月光をあびて、ボンヤリと捨石すていしに腰かけたまま動かなかった。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
午頃ひるごろまで長吉は東照宮とうしょうぐうの裏手の森の中で、捨石すていしの上によこたわりながら、こんな事を考えつづけたあとは、つつみの中にかくした小説本を取出して読みふけった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其處からくはの柄三尺八寸の寸法で三三が九つ、つまり二十四尺二寸だけ未申ひつじさる(南西)の方へ行くと、其處に大きな捨石すていしが一つある。その戌亥いぬゐ(西北)が空井戸だ。
老公ご一代にかなわねば、三代四代幾代かけても、かならずそうせずにはおかないわれわれの誓文せいもんのために……お次さん、おれは捨石すていしになる覚悟だ。それが江戸に来たわしの望みだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焼山やけやまについてやすんだところで、渋茶しぶちやむのはさだめししわくたの……ういへば、みちさか一つ、ながれちかく、がけぶちの捨石すていしに、竹杖たけづゑを、ひよろ/\と、猫背ねこぜいて、よはひ、八十にもあまんなむ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
苔むした大いなる捨石すていしのところより、左にはいり……とある
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
半七はそこにころげている捨石すていしに腰をおろした。
「あれか、あれは俺にとっちゃ捨石すていしだよ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
捨石すていしに。——小雨こさめのあとのかぜいきれ
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
麗子は何気なく云って、灌木かんぼくのしげみの前の捨石すていしに腰かけて、少年をひざの上に招いた。可憐なる美少年は、いつも大人の膝に乗りなれていたからだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
午頃ひるごろまで長吉ちやうきち東照宮とうせうぐう裏手うらての森の中で、捨石すていしの上によこたはりながら、こんな事を考へつゞけたあとは、つゝみの中にかくした小説本を取出とりだして読みふけつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と、龍太郎りゅうたろうほりぎわの捨石すていしを見つけて、ゆったりとそこへこしをおろした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苔すこしひぢばみ青む捨石すていし
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
種彦は狂気の如く前後左右に切退きりのけ切払い、やっとの事で橋の向うへと逃げのびたが、もう呼吸いきも絶え絶えになるばかり疲れ果て有合う捨石すていしの上に倒るるように腰を落した。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分はいいところを見付けたと喜んで、松の根元の捨石すていしつかれた腰をおろした。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)