抜出ぬけだ)” の例文
旧字:拔出
床から半身を抜出ぬけだしたまま、血にまみれて死んでいる恐ろしく魅惑的な美女——小杉卓二の愛人夢子の死骸をクッキリ浮出うきださせているのでした。
……この大痘痕おおあばたばけものの顔が一つ天井から抜出ぬけだしたとなると、可恐おそろしさのために一里ひとさと滅びようと言ったありさまなんです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お千代も度々主家の書生や車夫などと夜がふけてからそっと屋敷を抜出ぬけだして真暗まっくらな丸の内へ出掛けたが、或夜巡査にとがめられ、屋敷から親元へ送り返された。その時お千代は既に妊娠にんしんしていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
魂が彼の身体を抜出ぬけだして、木乃伊に入ってしまったのであろうか。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
何時いつの間にやら温かい部屋を抜出ぬけだし、庭下駄を突っかけたまま、夢心地に深い雪を踏みわけて、女の側に立って居りました。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
が、炎天、人影も絶えた折から、父母ちちははの昼寝の夢を抜出ぬけだした、神官のであらうと紫玉はた。ちら/\廻りつゝ、廻りつゝ、彼方此方あちこちする。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
古襖がたてつけの悪いままで、その絵の寒山拾得かんざんじっとくが、私たちをゆびさして囁き合っているていで、おまけに、手から抜出ぬけだした同然に箒が一本立掛たてかけてあります。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何時いつの間にやら床の中から抜出ぬけだしたお駒は、長襦袢ながじゅばん一つで三之丞の枕元に坐って居たのです。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
階子はしごをさして天井へ上った、警官おまわりさんの洋剣サアベルが、何かの拍子にさかさまになって、鍔元つばもとが緩んでいたか、すっと抜出ぬけだしたために、下に居たものが一人、切られた事がある座敷だそうで。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姿見から影を抜出ぬけだしたような風情で、引返して、車内へ入って来たろうではないか。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この町のにぎやかな店々のかっと明るいはてを、縦筋たてすじに暗くくぎった一条ひとすじみちを隔てて、数百すひゃく燈火ともしび織目おりめから抜出ぬけだしたような薄茫乎うすぼんやりとして灰色のくま暗夜やみただよう、まばらな人立ひとだちを前に控えて
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(どうしたんです。)と、ちょうどい、その煙草盆を一つ引攫ひっさらって、二人の前へ行って、中腰に、敷島を一本。さあ、こうなると、多勢の中から抜出ぬけだしたので、常よりは気が置けない。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それをんなたすいたところは、夜一夜よひとよ辿々たど/\しく、山路野道やまみちのみちいばらなか徉徜さまよつた落人おちうどに、しらんだやうでもあるし、生命懸いのちがけ喧嘩けんくわからあはたゞしく抜出ぬけだしたのが、せいきて疲果つかれはてたものらしくもある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
抜出ぬけだしましたもののように思われてなりませぬ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)