手斧ちょうな)” の例文
きのうまでは、のみ手斧ちょうなの音が屋敷うちにこだましていたが、今日はまたふすまの張りかえやら御簾職人などが、各部屋ごとに立ち働いている。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに年季に上げたらお給金は貰えないしさ、手斧ちょうなを使うようになって怪我でもしてごらんな、うちで黙って見てもおれないじゃないかね。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
もうその頃には鬱陶うっとうしい梅雨もようやく明けて、養神亭ようしんてい裏の波打際でも大工の手斧ちょうなの音が入り乱れて小舎に盛んに葦簀よしずが張られている頃であったが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その結果二人ともに数ヵ所の重傷を負って倒れたので、兇器は手斧ちょうななたのようなものであるらしく思われました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昔の刀鍛冶かたなかじが明治維新この方、新しい職を求めてなたまさかり手斧ちょうなというような日常の用具を作るようになりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
のこぎり手斧ちょうなとマッチが食料品と同様に雪の山では必需品であることを実例で教えてくれたのはこの老人であった。
もしもちとなり破壊れでもしたら同職なかま恥辱はじ知合いの面汚し、うぬはそれでも生きて居らりょうかと、とても再び鉄槌かなづち手斧ちょうなも握ることのできぬほど引っしかって
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
年は十七、あぶ手斧ちょうなといったような死の予言の話なども、日本ではやや東部に偏して行われ、一方にはまた宮古島の旧伝の中に、破片となって保存せられている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この辺まで入り込んでみれば、ますますくぎを打つ音や手斧ちょうなをかける音が聞えてくるのである。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この田舎家の木口というものが大まかな欅作けやきづくりで、かんなのはいっていない、手斧ちょうなのあとの鮮かなところと、桁梁けたはり雄渾ゆうこん(?)なところとを見ても、慶長よりは古くなく、元禄よりも新しくない
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんならひとつ、その大ぜいの弟子でしを使うて道路の石でも浜へころがしてつかあさらんか(くださいませんか)。ここは大工でないと都合がわるいですわい。それとも、手斧ちょうなでも持ちますかな
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
市井しせいの鶯というほどではなくとも、人寰じんかんを離れざる世界である。普請場小景というところであるが、のみ手斧ちょうなの音が盛にしはじめては、如何に来馴れた鶯でも、近づいて啼くほどにはなるまい。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そのまえに、もう一つやってもらうことがあるの。あすこに、銀の材木があります、それから手斧ちょうなでも、さしがねでも、いりようのものはなんでもみんな銀でそろってるから、あれで、まずちいさな家を
刃は手斧ちょうなと同じく、柄に横についている(図218)。
耳もふさぐばかりなのみ手斧ちょうなのひびきは、それにたかってありのごとく働いているたくさんな船大工の手から発しるものだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どういう筋で喧嘩をいたしましたか知りませぬが大それた手斧ちょうななんぞを振り舞わしましたそうで、そうききました時は私が手斧で斫られたような心持がいたしました
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その晩もいつもの夫婦喧嘩から、一杯機嫌の権七は、店にならべてある商売物のなかから大工道具の手斧ちょうなを持ち出して、女房の脳天を打ち割ったので、おいねは即死した。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手斧ちょうなや鉋は中々許されなかった。然し彼は仕事に少年としては意外の悧発さを示した。そして自分でも、他人の手に成った螺鑽おおぎりの穴を辿って角材に鑿を入れることがもの足りなかった。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「うるせえっ」二十幾けんかある廻廊を、お吉は黒髪をながして逃げまわり、夜叉やしゃ手斧ちょうなはあくまでそれを追いつめにかかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その晩もいつもの夫婦喧嘩から、一杯機嫌の権七は、店にならべてある商売物のなかから大工道具の手斧ちょうなを持ち出して、女房の脳天を打ち割ったので、おいねは即死した。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
りゅうなら竜、とらなら虎の木彫をする。殿様とのさま御前ごぜんに出て、のこぎり手斧ちょうなのみ、小刀を使ってだんだんとその形をきざいだす。次第に形がおよそ分明になって来る。その間には失敗は無い。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「……だが、お吉、おらあどうしても、おめえを手斧ちょうなで斬った覚えがあるんだが……どこにも、おめえは怪我けがをしていないか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死んでも立派に名を残さるる、ああ羨ましい羨ましい、大工となって生きている生き甲斐もあらるるというもの、それに引き代えこの十兵衛は、のみ手斧ちょうなもっては源太様にだとて誰にだとて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は一挺の手斧ちょうなを持ち、一つの麻袋を腰につけて出かけるのである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その年の鎌倉は、石曳いしびうた手斧ちょうなの音に暮れ、初春も手斧のひびきや石工いしくの謡から明けめた。——鎌倉へ、鎌倉へ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日比谷の原にはのみの音や、手斧ちょうなのひびきが、新幕府の威勢を謳歌していた。——見るもの、耳に聞えるもの、伊織には、めずらしくない物はなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だっ——と躍ってきて、後ろから振りかざしてきた平次郎の手斧ちょうなは、彼女の肩骨からうなじへかけて、柱でもけずるように、ぴゅッ、とななめな光を描いた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畑はすっかり土をならされて、沢山な石と材木が入っていた、大工は、墨を引き手斧ちょうなをふるっている。鉋板かんないたから走る鉋屑かんなくずが、いっぱいに其処らを埋めていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
改めてこのほこらを見るに、木組きぐみひさし手斧ちょうなのあとなど、どことなく遠い時代のにおいがあって、建物としては甚だ粗末ですが、屋根においかぶさっている二本松と共に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは藤吉郎も家臣の人々も知らないではなかったが、遠く、のみ手斧ちょうなの音がきこえてくるので、急病人をつれて行ったところで、手段はあるまいと考えていたのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘエ、しかし、ひとつは、無銘の長いやつ、ひとつは新藤五という小脇差で、すばらしい名作、のみ手斧ちょうななら知らないこと、船大工風情の手にある代物しろものでないことは分っています。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりあえず一部を普請ふしんし、あとは昼夜兼行ののみ手斧ちょうなの音だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)