ことごとく)” の例文
「梅雨ばれ」と云ひ、「私雨」と云ひ、「雲ちぎれ」と云ひ、ことごとく俗語ならぬはない。しかも一句の客情かくじやうは無限の寂しみにあふれてゐる。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
飛行機、軍艦、自動車、タンク等、戦略、戦術の死命を制する器械はことごとく重油、軽油を動力とする時代となって来たのであります。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
天下の姑ことごとくみな悪婦にあらず、天下の嫁悉皆悪女子にあらざるに、其人柄の良否に論なく其間の概して穏ならざるは、畢竟人の罪に非ず勢の然らしむる所
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その仲間には私のほかにも、私より幾つか年上の、おとなしい少年がまじつてゐた。彼は其処そこにゐた少女たちと、ことごとく仲好しの間がらだつた。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ず博士の卵を探し出すんだ。博士の卵なんて滅多に居ないようだが、気を付けてみるとしらみの卵と同様、そこいらにイクラでも居るんだ。天下の青年、ことごとく博士の卵ならざるなしと云っていい位なんだ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが氏の論旨を知ったり、時々は氏に生意気な質問なぞも発したりしたのは、ことごとく週報「上海」の主筆西本省三氏のおかげである。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
偉大なる芸術家の作品を心読出来た時、僕等は屡その偉大な力に圧倒されて、爾余じよの作家はことごとく有れども無きが如く見えてしまふ。
芸術その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
所謂芭蕉の七部集しちぶしふなるものもことごとく門人の著はしたものである。これは芭蕉自身の言葉によれば、名聞みやうもんを好まぬ為だつたらしい。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よし又天下の女人にしてことごとく交合を恐れざること、入浴を恐れざるが如きに至るも、そは少しも娼婦型の女人の増加せる結果と云ふこと能はず。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ラ・モットの短篇を読んだのも、ティッチェンズの詩を読んだのも、ジャイルズの議論を読んだのも、ことごとくこの間の事である。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
故に久保田君の芸術的並びに道徳的態度をことごとく理解すること能わず。然れども君の小説戯曲に敬意と愛とを有することは必しも人後に落ちざるべし。
久保田万太郎氏 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
されば「さんた・るちや」の前に居並んだ奉教人衆は、風に吹かれる穂麦のやうに、誰からともなく頭を垂れて、ことごとく「ろおれんぞ」のまはりにひざまづいた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
董家山とうかざん」の女主人公金蓮、「轅門斬子えんもんざんし」の女主人公桂英、「双鎖山そうさざん」の女主人公金定等はことごとくこう言う女傑である。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若し夫れ其大略を知らんと欲せば、「鏡花全集」十五巻の目録、ことごとく載せて此文後に在り。仰ぎ願くは瀏覧りうらんを賜へ。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
六の宮へ行つて見ると、昔あつた四足よつあしの門も、檜皮葺ひはだぶきの寝殿やたいも、ことごとく今はなくなつてゐた。その中に唯残つてゐるのは、崩れ残りの築土ついぢだけだつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
董家山とうかざんの女主人公金蓮、「轅門斬子ゑんもんざんしの女主人公桂英けいえい、「双鎖山さうさざん」の女主人公金定等はことごとくかう言ふ女傑である。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この頃内田百間うちだひやくけん氏の「冥途めいど」(新小説新年号所載)と云ふ小品を読んだ。「冥途」「山東京伝さんとうきやうでん」「花火」「くだん」「土手どて」「豹」とうことごとく夢を書いたものである。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
猿を先祖とすることはエホバの息吹きのかかつた土、——アダムを先祖とすることよりも、光彩に富んだ信念ではない。しかも今人はことごとくかう云ふ信念に安んじてゐる。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
猿を先祖とすることはエホバの息吹きのかかった土、——アダムを先祖とすることよりも、光彩に富んだ信念ではない。しかも今人はことごとくこう云う信念に安んじている。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかもその食器がことごとく、べた一面に青い蓮華れんげや金の鳳凰ほうわうを描き立てた、立派な皿小鉢ばかりであつた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と云ふ意味は、倪雲林げいうんりんが石上の松を描く時に、その松の枝をことごとく途方もなく一方へ伸したとする。
芸術その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ことごとく堕落しているではないか? 殊に芸術となった日には、嘉慶道光かけいどうこうの間以来、一つでも自慢になる作品があるか? しかも国民は老若を問わず、太平楽ばかり唱えている。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはやむを得ない運命でありますが、いやしくも外国人にも窺はれる所はことごとく看破するだけの気組みを持たなければなりません。支那人は古来「一字の師」と言ふことを言ひます。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この書、篇中の人物風景をことごとく支那風に描きたる銅版画の揷画数葉あり。その入窄門図にふさくもんづの如き、或は入美宮図の如き、長崎絵の紅毛人に及ばざれど、亦一種の風韻ふうゐん無きに非らず。
一刀一拝の心もちが入るのは、ほとけを刻む時ばかりでないと云ふ気がした。名人の仕事に思ひ比べれば、我々の書き残した物なぞは、ことごとく焚焼ふんせうしても惜しくはないと云ふ気がした。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かみは主人の基経から、しもは牛飼の童児まで、無意識ながら、ことごとくさう信じて疑ふ者がない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あした呉客ごかくの夫人となり、くれ越商ゑつしやう小星せうせいとなるも、あにことごとく病的なる娼婦型の女人と限るけんや。この故に僕は娼婦型の婦人の増加せる事実を信ずる能はず。いはんや貴問に答ふるをや。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文天祥祠も、楊椒山ようしょうざんの故宅も、白雲観も、永楽大鐘も、(この大鐘は半ば土中に埋まり、事実上の共同便所に用いられつつあり。)ことごとく中野君の案内を待って一見するを得しものなり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのほか柔道、水泳とうも西川と共に稽古けいこしたり。震災の少し前に西洋より帰り、舶来はくらいの書をことごとく焼きたりと言ふ。リアリストと言ふよりもおのづからセンテイメンタリズムを脱せるならん。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
のみならずその游泳者はことごとく水を飲んでをり、その又ランナアは一人残らず競技場の土にまみれてゐる。見給へ、世界の名選手さへ大抵は得意の微笑のかげに渋面を隠してゐるではないか?
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世界にありとあらゆる物は、ことごとく蛙の為にあるのだ。神の御名みなきかな。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この画の蓮は花でも葉でも、ことごとくどつしり落ち着いてゐる。殊に蓮の実の如きは、古色を帯びた絹の上に、その実の重さを感ぜしめる程、金属めいた美しさを保つてゐる。さぎまた唯の鷺ではない。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし森の鳥はことごとく、疑深さうな眼つきを改めなかつた。のみならず一羽のふくろふが、「あいつも詐偽師の仲間だぜ。」と云ふと、一斉いつせいにむらむらおそひかかつて、この孔雀をも亦突き殺してしまつた。
翻訳小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
給仕はことごとく支那人だが、隣近所の客の中には、一人も黄色い顔は見えない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
更に略々ほぼ同時代に成つた「伝記私言数則」はことごとくこのことに及んでゐる。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
げん李※りかん文湖州ぶんこしうの竹を見る数十ふくことごとく意に満たず。東坡とうば山谷等さんこくらの評を読むもまた思ふらく、その交親にわたくしするならんと。たまたま友人王子慶わうしけいと遇ひ、話次わじ文湖州の竹に及ぶ。子慶いはく、君いまだ真蹟を見ざるのみ。
(しかもわたしの乗った鳳陽丸は浦口プウカオを発するのが遅かった為に、こう云う彼の心尽しもことごとく水泡に帰したのである。)のみならず彼の社宅たる唐家花園とうかかえんに落ち着いた後も、食事とか着物とか寝具とか
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
支那に在留する日本人はことごとくふんだんに持ち合わせている。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)