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御金
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おかね
「
坂井さん
見た
樣に、
御金があつて
遊んでゐるのが
一番可いわね」と
云つた
御米の
言葉を
聞いて、
小六は
又自分の
部屋へ
歸つて
行つた。
申請
御金會所にて金子受取參るべしと
云遣けるにぞ吉兵衞は
彼書付を
懷中なし
爰に
彌々決心し兼て
勝手を知し事なれば
御勘定の
部屋に到り右の
書付を差出ければ役人は是を
「
本當にね。
兄さんにさへ
御金があると、
何うでもして
上げる
事が
出來るんだけれども」と、
御世辭でも
何でもない、
同情の
意を
表した。
「
御金は」と云つた。見ると、
間にはない。三四郎は又
衣嚢を
探つた。
中から
手摺のした札を
攫み
出した。女は手を
出さない。
それが
出來ないんだつて。
何う
見積つても
兩方寄せると、十
圓にはなる。十
圓と
云ふ
纏つた
御金を、
今の
所月々出すのは
骨が
折れるつて
云ふのよ
心配しないでも
可い。
宜しく
願つて置けば構はない。所が一番仕舞になつて、
御金は
此所にありますが、あなたには
渡せませんと云ふんだから
驚ろいたね。
いえ、
揚足を取ると思ふと、
腹が立つでせう。
左様なんぢやありません。それ程
偉い
貴方でも、
御金がないと、
私見た様なものに
頭を
下げなけりやならなくなる
夫で
差支ないんですよ。喧嘩も
何も
起らないんだから。けれどもね、そんなに
偉い
貴方が、
何故私なんぞから
御金を
借りる必要があるの。
可笑しいぢやありませんか。
「だから遊んでないで、御
尽しなさいな。
貴方は寐てゐて
御金を
取らうとするから狡猾よ」
「
御金は、
彼所ぢや
頂けないのよ」と云つた。三四郎は
落胆した。