建具たてぐ)” の例文
それも京橋辺きょうばしへんの酒屋の隠居所を、ある伝手つてから二階だけ貸して貰ったので、たたみ建具たてぐも世間並の下宿に比べると、はるか小綺麗こぎれいに出来上っていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ安房あわ上総かずさの国で特筆されてよいと思いますのは、日蓮宗のお寺で名高い清澄きよすみ山やまた風光のよい鹿野かのう山に建具たてぐを職とする者が集っていて
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
障子しようじのような建具たてぐえついたならば、この建具たてぐたふすこと、衣類いるいえついたときは、ゆかまた地面じめん一轉ひところがりすれば、ほのほだけはえる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
家の中では板の間や柱をつや/\と拭き込み、畳建具たてぐを新しく調とゝのえ、屏風びょうぶ几帳きちょうを動かして座敷の模様がえをする。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雲雀ひばりは鳴いて居たが、初めて田舎のあばら住居ずまいをする彼等は、大穴のあいた荒壁あらかべ、吹通しの床下ゆかした建具たてぐは不足し
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
即ち余は建具たてぐ職の若者と同居せねばならぬ、余は此の家をも早く去る積り。東京へ帰ることにしよう。為事しごとが快く続かない。今日徳田秋声を訪ねたが志を果さなかった。
ちょっと当方こっちに話があるんだが——だからよ、大工でえくでも建具たてぐでも、何でもそうだが、職人てものは気性きっぷでね、ことに左官なんて、れ物を扱う職は、気性一つなんだ——
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
建具たてぐ屋の金次は間違ひもなく下手人ですよ。死ぬほどお紋に惚れてゐたといふから。——尤も本人は、お紋と當人同士は出來て居て、市五郎が邪魔さへしなきや、近いうちに仲人を
こといへは、風通かぜとほしもよし室取まどりもよし造作ざうさく建具たてぐごときも、こゝらにのきならべた貸家かしやとはおもむきちがつて、それ家賃やちんもかつかうだとくのに……不思議ふしぎしてるものが居着ゐつかない。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
間もなく家財や、はづした建具たてぐ奥庭おくにはへ運び出す音がし出した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
とにかくその障子の色のすがすがしさは、軒並のきなみの格子や建具たてぐすすぼけたのを、貧しいながら身だしなみのよい美女のように、清楚せいそで品よく見せている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
建具たてぐ取払って食堂がひろくなった上に、風が立ったので、晩餐のたくすずしかった。飯を食いながら、ると、夕日の残る葭簀よしずの二枚屏風に南天の黒い影がおどって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あつしは隣りの建具たてぐ屋の金次ですよ。怪しい者ぢやありません」