広袖どてら)” の例文
旧字:廣袖
後悔をしても追附おっつかない。で、弦光のひとり寝の、浴衣をかさねた木綿広袖どてらくるまって、火鉢にしがみついて、肩をすくめているのであった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人ねお金を沢山たんと持っている客人があるのざんすよ、先刻さっきわっしがねお召を着替なましって広袖どてらへ浴衣を重ねて貸したのさ、初会客だが、目の悪い二十五六のい男の、品のい人だが
小宮山は広袖どてらを借りて手足を伸ばし、打縦うちくつろいでお茶菓子のこしの雪、否、広袖だの、秋風だの、越の雪だのと、お愛想までが薄ら寒い谷川の音ももの寂しい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気の毒でならねえ、あの利かねえ身体で、四つ手校注に乗って広袖どてらを着て、きっとお前が此家こゝに居ると思って、奥に先刻さっきから師匠は来て待って居るから、行って逢いな、気の毒だあナ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雪まぶれの外套を脱いだ寒そうで傷々いたいたしい、うしろから苦もなくすらりとかぶせたので、洋服の上にこの広袖どてらで、長火鉢の前に胡坐あぐらしたが、大黒屋惣六そうろくなるもの
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄汚れて、広袖どてらかと思う、袖口もほころびて下ったが、巌乗がんじょうづくりの、ずんと脊の高い、目深に頬被ほおかぶりした、草鞋穿わらじばきで、裾を端折らぬ、風体の変な男があって、懐手で俯向うつむいて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広袖どてらを着たまま亡くなると、看病やつれの結び髪を解きほぐす間も無しに、母親も後を追う。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉の青い路之助が、八たん広袖どてらに、桃色の伊達巻だてまきで、むくりと起きて出たんですから。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、気疾きばやくびからさきへ突込つっこむ目に、何と、ねやの枕に小ざかもり、媚薬びやく髣髴ほうふつとさせた道具が並んで、生白なまじろけた雪次郎が、しまの広袖どてらで、微酔ほろよいで、夜具にもたれていたろうではないか。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北の海なる海鳴うみなりの鐘に似て凍る時、音に聞く……安宅あたかの関は、このあたりから海上三里、弁慶がどうしたと? 石川県能美郡のみごおり片山津の、直侍なおざむらいとは、こんなものかと、客は広袖どてらの襟をでて
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可訝おかしな顔をして出て来ようと思ったその(小使)でもなしに、車夫のいわゆるぺろぺろの先生、早瀬主税、左の袖口のほころびた広袖どてらのようなかすり単衣ひとえでひょいと出て、顔を見ると、これは
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(えへん)とせきばらいを太くして、おおきな手で、灰吹を持上げたのが見えて、離れて煙管きせるが映る。——もう一倍、その時図体が拡がったのは、袖を開いたらしい。此奴こいつ寝子ねこ広袖どてらを着ている。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯の廓は皆柳の中を広袖どてら出歩行であるく。いきおいなのは浴衣一枚、裸体はだかも見えた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むつまじやかなる談話はなしの花を、心無くも吹散らす、疾風一陣障子を開けて、お丹例のごとく帯もしめず、今起き出でたる風情にて、乱れ姿に広袖どてら引懸ひっかけ、不作法に入来いりきたりて、御両方おふたかたの身近に寄り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外套を押遣おしやって、ちと慌てたように広袖どてらを脱ぎながら、上衣の衣兜へまた手を入れて、顔色をかえてしおれてじっと考えた時、お若は鷹揚おうようも意に介する処のないような、しかも情のこもった調子で
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……次にまた浴衣に広袖どてらをかさねて持って出たおんなは、と見ると、あから顔で、太々だいだいとした乳母おんばどんで、大縞のねんね子半纏ばんてんで四つぐらいな男のおぶったのが、どしりと絨毯に坊主枕ほどの膝をつくと
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
綿を厚く入れた薄汚れた棒縞ぼうじま広袖どてらを着て、日に向けてせなかを円くしていたが、なりの低い事。草色の股引ももひき穿いて藁草履わらぞうりで立っている、顔が荷車の上あたり、顔といえば顔だが、成程鼻といえば鼻が。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広袖どてらを出しておくれ、……二階だよ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)