寡婦かふ)” の例文
乙女の愛の芽生えから結婚、出産、最後に寡婦かふの淋しさまで八曲に歌ったもので、その純粋な愛情と美しい悩みは人を揺り動かす。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それら寡婦かふのうち衣食に窮するままに、辺境守備兵の妻となり、あるいは彼らを華客とくいとする娼婦しょうふとなり果てた者が少なくない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一週に二回数人の知人が、その寡婦かふの炉のまわりに集まることになっていて、そこに純粋な王党派の客間サロンをこしらえていた。皆お茶を飲んだ。
当市の監獄には、大阪のそれとことなりて、女囚中無学無識の者多く、女監取締りの如きも大概は看守の寡婦かふなどが糊口ここうの勤めとなせるなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
身寄りのすくない、寡婦かふの母の手には育てられたが、彼の性格としては、大勢がすきだった。大勢でにぎやかによく働きよく笑える家庭が理想だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いにしえの女帝にも御独身の方が多く、女流の文学者にも寡婦かふとなって後に名を揚げ、また未婚で終った人たちも少くない。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
寡婦かふとして彼を育て上げた彼の母、彼の姉、彼の二兄、家族の者は皆彼が海軍を見捨つることに反対した。唯一人満腔まんこうの同情を彼に寄せた人があった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは彼がその家の寝ている主婦を思い出すからであった。生島はその四十を過ぎた寡婦かふである「小母おばさん」となんの愛情もない身体の関係を続けていた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
いろいろと躊躇ちゅうちょしています。王子はしきりとおせきになります。しかたなくむねのあたりの一まいをめくり起こしてそれを首尾しゅびよく寡婦かふの窓から投げこみました。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小金を持った未亡人や寡婦かふに結婚を申込み、大量殺人による資産の蓄積という、骨の折れる事業に挺身するようになったのは、大戦勃発直後のことであった。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、いつもより長く食卓にすわり、いつもより盛んに食ったり飲んだりして、元気を出そうとした。しかし、寡婦かふになった花嫁の立場がいちばんあわれだった。
ともかくも二人の子供を立派に育て上げた堅実な寡婦かふ、——それだけが私の本来の姿で、そのほかの姿
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
寡婦かふ! ……美貌! ……うら若い身の上! ……自分の妻となる前に、幾人、いやいや幾十人、この女を射落とそうと、六波羅武士や北面の武士が、ねらい、口説くど
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとえばそれは母が子を愛するようなものである。余の知っているある一人の寡婦かふはただ一人の男の子の放蕩を苦にしながらもどうしてもそれを棄て去ることが出来ぬ。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
何とも理由づけられない災難に逢ったのち、男の子三人抱えた寡婦かふとして自分を発見した皆三の母親のおふみは、はじめて世の中の寂しいことや責任の重いことを覚った。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
老宰相は伜の寡婦かふのいる内房ないぼう西房せいぼうへ入って往った。寡婦の夫人は愛嬌あいきょうを湛えてしゅうとを迎えた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
コンコード(またルムフォードとも呼ぶ)から教師に呼ばれたのが十九歳の時で、風采が美しかったが、金持のロルフ大佐の寡婦かふと結婚した。このとき夫人は三十三歳である。
自分が世を去ったあとで寡婦かふとして暮らすばかりも気の毒であるに、衣食に不足のことがあるようでは、なんとも天に対し妻に対し妻の家族に対して申し訳がないと思えばこそ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
産期の近い玉目トキに、寡婦かふになった高倉の母を附き添わしたのは家中の意志であり彼女の意志でもある。トキ女にとっては、生れて来る児は愛する夫の肉体につながっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
たとえば木綿もめんが農村に入って、麻の衣類にかわっていった時代の様子、村に住する寡婦かふの生計が、農具の改良によって激変を受けたこと、いわゆる後家ごけ泣かせという稲扱器いねこききの普及
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そしてF君を連れて、立見たちみと云う宿屋へ往かせた。立見と云うのは小倉停車場に近い宿屋で、私がこの土地にいた時泊った家である。主人は四十を越した寡婦かふで、ちんを可哀がっている。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はじらいを。君は、僕にれているのだ。どうかね。ゆるすなんて、美しい寡婦かふのようなことを言いなさんな。僕は、君が僕に献身的に奉仕しなければもう船橋の大本教に行かぬつもりだ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たしかに、噴水の水はそれを物語っているにちがいありません。打寄せる岸辺きしべの波はそれを歌っているにちがいありません。海のおもてには、しばしばきりがたちこめます。それは寡婦かふのベールです。
僕がきのう金をやったのは、まさに轢死者れきししゃ寡婦かふだったのです。
ジャン・ヴァルジャンに残ったものは、七人の男女の子供をかかえ寡婦かふになっているずっと年上の姉だけだった。
先帝の遺誡いかいにそむくまいと、自己を神格的なものに持ちささえている寡婦かふのつよい一心が、その姿までを、氷の中の花みたいに、きびしいものに作っていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きくと、新しい墓は、ある貧しい寡婦かふの一人息子のためのものだということだった。
手稲ていね藻巌もいわの山波を西に負って、豊平川を東にめぐらして、大きな原野の片隅に、その市街は植民地の首府というよりも、むしろ気づかれのした若い寡婦かふのようにしだらなく丸寝している。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
若い寡婦かふになったイザベルは再びミュゾットの館に引き取られた。やがてそのうちに彼女の前に二人の求婚者が現われた。そしてその二人は決闘して、お互いに刺し合って二人とも死んでしまった。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
寡婦かふの淋しさを終るまで——、なんというすばらしい表現であろう。
私の生家の近くに、貧しい嫁姑よめしゅうとの二段の寡婦かふが住んでいた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして彼とともに「こいの肉料理」の秘法もわからなくなってしまった。けれども寡婦かふはとやかく店を続けていた。
けれど、衆臣の動揺は、この一寡婦かふと年少の天子に、しょせん、大きな頼みはかけられなかった。時に、それを励ましたのは、公卿でなく、吉野ノ執行しぎょう吉水院きっすいいんノ法印宗信そうしん
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人の年った寡婦かふがせっせと針仕事はりしごとをしているだろう、あの人はたよりのない身で毎日ほねをおって賃仕事をしているのだがたのむ人が少いので時々は御飯も食べないでいるのがここから見える。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
寡婦かふや小児を排除するの傾向を示しつつあったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼らは貧民や寡婦かふや孤児などには、人より三日前から牧場の草を刈ることを許しています。その家がこわれる時は無料で建ててやります。それゆえその地方は神に恵まれているのです。
気づかれのした若い寡婦かふははじめて深い眠りに落ちた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
リボンの上にジャムがある——道の上に血がある。後家をめとる——絞首される。あたかも首吊り台の縄はすべての被絞首者の寡婦かふであるかのようだ。盗人の頭は二つの名前をもっている。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
法律から作られた三人の寡婦かふだ。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)